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人生の花は誰にも必ず訪れる。その時を見逃してはいけないよ。【友美の日本酒コラム007】おとついからの二日酔い

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店のお客様からの勧めで、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」という映画を観た。1999年公開し話題になった“あの”「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(BVSC)」ドキュメンタリー映画の続編だ。アメリカのギタリスト、ライ・クーダーがキューバ旅行中に現地老アーティストたちとセッションをしたのがキッカケとなり、集結されたバンド。チャンスに恵まれず音楽業界の一線を退いて靴磨きを生業にしていた者にも声がかかった。平均年齢は当時すでに70歳。それまで国外にあまり出ることのなかったキューバ音楽が、「おじいちゃんとおばあちゃん」という遅咲きだった彼らの姿も印象強く、世界的に大ヒットし世界ツアー敢行、さらにオバマ政権時にはキューバ在住のミュージシャンとしては初めてホワイトハウスに招かれ演奏をした。音楽面、文化面ともに話題となった彼らは、メンバーを亡くしながらも新メンバーを受け入れて現在でも世界ツアーを続けている。

 

――そんな彼らを「1999年人気沸騰時とは少し違い、今回の作品はひとりずつの人生や経過にスポットライトを当て丁寧に描いているよ。」とお客様から聞いて、わたしは映画館へと走った。

物語の端々に文化や歴史、白人と黒人との差別問題、アメリカとの確執などキューバが抱えてきたさまざまな問題が垣間見られたがここでは置いておこう。とにかく彼らは音楽を愛し、音楽に愛されている。「最後の演奏は墓の中でするよ」とピアノマンが笑い、ボーカルは亡くなる4日前まで酸素吸引をしながらもステージに立つ。全身全霊で愛を貫くバンドメンバーたちから「お前は精一杯生きているのかい?」そんなことを問いかけられた気がした。「もっと人生を生きなければならない。」と焦ったのはわたしだけではないと思う。年の功というのか、発言だってまるで詩のよう。うわぁ、なんてかっこいい生き様だろう!

ところで劇中で彼らは葉巻をふかし、自国のラムを飲んでいる。氷は入れずストレートのままコップで。観客も一様にそうやってラムを飲みながらライヴを観ている。ホワイトハウスで取材を受けた際にも(うろ覚えで申し訳ないが)、メンバーが興奮して軽快なジョークを飛ばすなかで、記者が「ワインで乾杯だね」と言うと、「いえ、そこはわたしたちのラムよ」とアメリカ人相手に笑う、その誇り高さに感動した。美味しそうにラムを飲む姿を見るだけでも「キューバに行って、キューバの風に吹かれてそのラムを飲んでみたいな」と思わせてくれる。わたしたちは同じように日本の酒を愛せているだろうか。何かを祝うとき、誰かを懐かしむとき、日本酒を傾けて乾杯/献杯するだろうか。

わたしがキューバに生まれていればラムを愛したかもしれないが、現世は日本酒の素晴らしさにすっかり憑りつかれてしまった。この想いをひとりでも多くの人に知ってもらいたい。劇中のキューバ人のように、日本人みんなが笑って日本酒の盃を傾けて欲しい。自国の酒を美味しく飲み、そして誇りに思って欲しいのだ。そのためにはまず日本酒でも、酒蔵でも、醸造家でも、わたしでも、店でも、コミュニティやイベントの賑わいでも対象はなんだっていい、興味を持ってもらい日本の酒と音楽と歴史を知ってもらう必要がある。この映画が政治も人種も超えて感動を与えているように、日本酒の“アーティスト”たちを知ってもらう必要があるだろう。

「俺は遅咲きだったが、人生の花は誰にも必ず訪れるよ。」

90歳を超えたBVSCのボーカル・イブライムが言った。人生どこでどうなるかわからないが、日本酒のためにわたしの花が咲くときが来ればよいと今、心から願う。さて今夜は日本酒仲間との集いだ。情熱を再確認しに、いってきます。飲みすぎないよう注意しなくては、今夜もまた酒への片思いに終わってしまう。

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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