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なぜお酒を飲むんですか?【友美の日本酒コラム003】おとついからの二日酔い

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「なぜお酒を飲むんですか?」

これは剣菱酒造の社長である白樫政孝さんが、まだ専務のころに地元の学生から投げかけられた質問である。剣菱酒造は1505年創業、今年で513年を数える神戸市東灘区にある老舗酒蔵。時代に翻弄され、今でいうところのM&Aを経て創業家が変わってきた歴史があるが、現在の白樫家には3つの家訓がある。

  • 「止まった時計でいろ」
  • 「お客さまからいただいた資金は、お客さまのお口にお返ししよう」
  • 「一般のお客さまが少し背伸びしたら手の届く価格までにしろ」

 

家訓を守るために、彼らは国内に営業や広報機能を置かない。そこにかけるお金があるなら、できる限りを品質向上や製造・貯蔵コストに充てるという方針だ。だから対応する人手がないために販売所はなく、蔵見学も基本的には対応していない。…というかできない。しかしその時ばかりは地元大学たってのオファーだった。地元蔵・地酒としては嬉しいことだ、と学生たちの見学を受け入れ、白樫さん自ら酒蔵内を案内し、会社の歴史や酒の説明を終えて「さあ、ほかに質問はありますか?」と聞いたところで、冒頭の質問が出た。もしわたしがその場に居合わせたなら、コントみたいにズッコケただろう。日本酒がどうだという議論以前の問題なんだから。

はなしの後で白樫さんは、学生たちひとりずつに声をかけ前先の質問について聞いて回った。すると実に率直な意見を聞くことができた。「親からの仕送りは減り、勉学でバイトをする時間も限られるなかで、携帯電話やパソコンなどの通信費は必要不可欠となっている。友達と集まるときに、たとえば1人2000円ずつ持ち寄るとしたら”袋菓子にお惣菜に缶チューハイ”よりは、カフェで”フラペチーノにスコーンやサンド”を頼んだほうがフォトジェニックインスタ映えする。」なにより「お酒を飲めば顔が赤くなって可愛くない。」と言うのだ。

 

きっと白樫さんの頭の片隅にも残り続けていることだろう。去年の春、その話を聞いてからというもの、この質問がわたしの心に引っかかり続けている。自分自身、気がついた時にはいつでも隣にはお酒があった。だから考えたこともなかったが、この仕事を続ける以上一度考える必要がありそうだと感じたのだ。

コーヒーもお茶も素晴らしいが、お酒はお酒なのである。TPOというものがある。飲みに誘っているのに「早朝のカフェミーティングじゃダメですか」なんて回答、言語道断だ。「好きです。僕と付き合ってください!」って伝えたのに「いいお友だちだと思ってるわ」って答えが返って来た時くらい残酷なことだ。

 

世界の歴史を見ても、人類はこれまでたとえ法律をすり抜けなければならないとしても、なんとしてでも必死にお酒を造り、飲んできた。化学という概念がない時代に、フラフラと千鳥足になってしまうなんてさぞ不思議だったろう。だから、神が乗り移っているなどとさえ言われてきた。寝て野生動物や敵から襲われ、命を落とす者もいたと思う。それでもお酒は現世まで残ってきた。理由があるはずだ。お酒にしかできないことがあるはずだ。そう、それはきっと「酔う」ということ

「コミュニケーションの有効手段として」上司も部下も、親も子も関係なく、酔わせて普段言えないことを口につかせてくれるその場の雰囲気。男女や年齢、身分もすべて関係なく同じ卓を囲み、同じ酒が飲めるのはお酒ならではのもの。平安時代にだって”無礼講”は存在したそうだ。お互いの盃を気にしながら汲み合えば、物理的な距離も近くなる。お酒はコミュニケーションを図るうえで近道をくれる魔法の道具。毎日の生活の中でコミュニケーションほど大切なことはない。

 

お酒を飲むと理性が飛んで本能や潜在意識、その人の地の部分が出てくる。お酒が悪なんじゃない。その人の性根が悪いのが表面に出てくるだけのこと。いつも隠している部分がお酒によって出てきて、人を幸せにする日もあるし、迷惑や心配をかけることもある。だけどちょっとくらいの失敗なら、さらけ出したほうが親しくなれるということもある。ヒトは、他人の弱さや欠点に自分自身を投影し共感を抱いたり、支える余地を感じたりすることで惹かれていく。きっと弱さを受け入れることこそが愛なのだろう。

「おいしい」「ヘルシー」先人たちが知恵を絞り、現在でも研究され続けている日本酒を含めたあらゆるお酒は純粋においしい。じっくり味わうお酒に合わせるつまみを、わざわざマズイものを選ぼうとは思わない。食に注目することはいずれ健康に繫がっていく。

 

「リラックスする」他の飲み物と違って、一般的にはお酒を仕事中に飲むことはない。だから仕事とプライベートとのスイッチ代わりにもなるだろう。酔った時の肩のチカラが抜ける感じ、顔がほころぶ感覚。心を緩め、身体も緩めてリラックスすることはとても大切で、明日への活力となる。酔ってダメになった自分を「ま、いっか」「悪くないなぁ」と許してあげれば、万病のもととなるストレスを緩和してくれる。

以上が「なぜお酒を飲むんですか?」へのわたしからの回答だ。

 

――とココまで書いたものの、実はもっともっと単純なことなのだろうと思う。美味しいお酒や良い酒場を見つけるのはワクワクする。賑やかにお酒を飲むのも楽しい。みんなが笑顔であれば誰だって嬉しくなる。笑顔を導いてくれるお酒は、わたしたち大人に許された特権だ。

余談だが、「お酒を飲めば顔が赤くなって可愛くない」とわたしは思わない。真っ赤な顔してついヘラヘラ~と笑っちゃってる酔っぱらいを見ると、老若男女問わずみんな愛おしいと思ってしまう。世界中の愛すべき酒飲みに告ぐ。うんちくも派閥もさておき、次世代に純粋なお酒の楽しさ、おいしさ、懐の深さを伝えなきゃならない時が来たようである。

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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