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【後編】杜氏の今持つすべてを表現したスパークリング日本酒・七賢「EXPRESSION2018」

掲載

2018年8月21日、ザ・リッツカールトン東京にて「七賢」を醸す山梨銘醸株式会社のスパークリング日本酒「EXPRESSION2018」新作発表会がおこなわれた。前回に引き続き、今回は杜氏である北原亮庫さんからのはなしを中心にお届けする。

「EXPRESSION=表現すること」の名に杜氏がこめた想い

杜氏を務める北原亮庫(りょうご)さんから、あおい有紀さんとのトークセッション形式で酒の説明、開発の過程についての説明があった。

  • ■キメの細かい泡があること
  • ■しっかりとした味わいとキレ

すべてのスパークリング日本酒に共通して、この2点に留意しているという。

難しかった点

酒質を設計するうえで、旨味とキレ味とをどのように配置するか、生み出すかが頭を悩ませた部分だった。スパークリングワインやシャンパンには、原料であるブドウ由来の爽やかな酸がある。しかし日本酒は、米や米麹の柔らかな旨味が味の核となる。さらに発泡もあることで、泡は口に入れてすぐに感じる刺激を与え、続いて米由来の長い余韻のある旨味を感じるため、口に入れてから飲みこむまでのバランスを考えなくては、バラバラにまとまりがなくなってしまう。その点をクリアするのが難しかった。ただし、何度も何度も試験をするというより、考え抜いてイメージが固まった段階で行動に移すタイプなので、酒質設計の構想が決まってから製品が完成するまでは早かったという。

なぜ貴醸酒なのか?

貴醸酒とは、通常水と米麹でつくる日本酒の工程で、水の一部に日本酒を取り入れ、お酒でお酒を醸す手法をとる日本酒の一種だ。「EXPRESSION」は、世界初の貴醸酒のスパークリング日本酒。どのようにして生まれたのか。

山梨銘醸では、その年最高峰の酒を一部別室で保管しておくことを長年続けていた。昔の米蔵を転用した場所で、空調や湿度は一定に、年間12度の整った環境で大切に熟成されてきた。古いものでは40年を数える。しかし、ワインと違い、熟成をさせたヴィンテージものに付加価値がつくという概念がまだまだ育ってない日本酒業界。このまま出したのでは、価値が伝わりにくいのではないかと議論されていた。

今回新しいスパークリング日本酒を構想するうえで、その熟成酒のことが頭をよぎった。「それなら、スパークリング日本酒の一部として扱おう」と。完成した酒にあとからブレンドする方法、瓶内二次発酵に入る前にブレンドする方法…などさまざま試験をしたが、熟成酒と新酒が馴染まず、味が離れている印象を持つ。一体感を持たせるためにはどうしたらいいのか?行きついた先が、貴醸酒だった。飲み比べした結果、そのなかでも15年古酒がふさわしいとして採用した。

こうして生まれた「七賢」の枠を超えた「EXPRESSION」

もともと貴醸酒を造っていなかったので、さまざまなメーカーの貴醸酒をテイスティングするところからはじめ、スパークリング日本酒にするためにはどんなものが良いのか想像を膨らませた。熟成酒を造ってくれた先代の造り手たちの気持ちや歴史に思いを馳せながらも、どのようにして新しいものを生み出すかに情熱を注ぐ。こうして”貴醸酒のスパークリング日本酒”という世界初の試みが実行された。開発をするうえで、一度頭のなかをリセットし既成概念を取り払うことを心がけた。構想2年、試験で1年。亮庫さんの今をすべてをこの一本に表現した。まさに「EXPRESSION=表現」だ。

キース・ヘリングとのコラボレーション

中村キース・ヘリング美術館のプログラム&マーケティングディレクターHIRAKUさんがトークセッションに加わり、今回採用されたキース・ヘリングラベルについての話になった。

同じ山梨県北斗市にあるキース・ヘリング美術館と山梨銘醸

キース・ヘリングは世界的に有名なアメリカの画家だ。ストリートアートの先駆者とも呼ばれたが、31歳という若さでこの世を去った。そんなアーティストの世界で唯一の美術館が、山梨県北杜市にある。山梨銘醸から車で25分という近い場所に位置する。

直接的な交流は、山梨銘醸が2015年に「スパークリング日本酒・山ノ霞」の発表イベントを地元でおこなった際、HIRAKUさんが訪れてからのことだ。それ以来プライベートでも親しく、情報交換などをおこなっていた。今回ラベルにキース・ヘリングの画を採用する案は、亮庫さんたっての願いだった。

キース・ヘリングは、昔から存在するアートというものを自分なりの形で地下鉄への落書き=グラフィティアートで表現するなど時代を創造した人物。古いものを蘇らせて、新たなものをつくる。自由な発想を持ちながら、専門性の高い作品をつくる。日本酒の枠のなかからはみ出すことはないが、発想は枠を飛び出して考えることから生まれた「EXPRESSION」。今回の酒のコンセプトとキース・ヘリングはよく似ていた。

ただしキース・ヘリング作品のライセンス管理などはアメリカでおこなっているため、従来どおり申請を回した。しかし、今回の許可はひときわ早かったそうだ。「財団もこの動きに賛同してくれたのではないかと思う。」とHIRAKUさんは語る。

キース・ヘリングは芸術だけでなく、AIDS撲滅活動などの社会活動も精力的に続けた生命力あるアーティスト。このスパークリング日本酒も、日本酒の歴史の中で大きな役割を果たすようにと願われている。15年古酒に限りがあるため、この酒は今年限り。ぜひ飲んでおきたい一本だ。

【前編】世界初・古酒を使った貴醸酒スパークリング日本酒、七賢「EXPRESSION2018」が誕生!

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
日本酒アドバイザーや飲食店勤務を経て、現在は「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の持つ味わい、文化、食事との相性、風土、歴史、人情など様々な日本酒の楽しみ方を提供。記事の執筆、イベントやセミナー講師および主催、日本酒専門店の女将としての接客業務など多角的な活動を通じて、日本酒のおいしさと日本文化の豊かさを伝えている。現在兵庫県の山陽盃酒造にて蔵人として酒づくり中。
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