<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 011> 歳末は新酒とともに
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あっという間に12月も下旬。まもなく仕事納めで、1年が終わろうとしている。「去年の紅白が3ヶ月前のようだ」なんてジョークは昔から言っていたけど、今年は本当に4~5ヶ月前のような気がしてしまって、時の流れの速さへと驚きと、今年何を成し遂げただろうかという不安に、心が動揺してしまう。
そんな終わりの季節ではあるけれど、日本酒は新酒の時期。自分よりも少しだけ早くリスタートを切った酒を頂き、味わいに浸る。
【一杯目】岩手 赤武酒造 「AKABU SNOW」
三陸海岸近くで生まれたこの酒造は、2011年の東日本大震災で酒蔵を津波にのまれ、時間をかけて2年後に再建したという、震災復興の旗印のような酒蔵。その復活の際に生まれたブランドがこのAKABUである。
マスカットのような香りから控えめなれど爽やかな甘味。軽くシュワシュワする微炭酸も心地良い。飲み込むタイミングで苦味がやってきて、すぐに消えてなくなる。単体でも十分楽しめるし、食中酒にもぴったりな一本。
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新酒とは本来、酒造年度内(毎年7月1日~翌年6月末)に造られた日本酒のことを指すので、年度内に出荷されたものであれば、すべて「新酒」と呼べる。ただ、秋に収穫したお米を使って造られることが一般的であるため、最近はこの年末年始に初めて搾られたお酒のことを「新酒」と呼ぶことが多い。
搾りたては貯蔵期間が短いため、コクは控えめなものの、フレッシュでフルーティーな風味が特徴。日本酒が苦手な人も飲みやすいと言われているので、新酒で日本酒デビューしてみるのも良いだろう。
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【二杯目】栃木 せんきん 「仙禽 初槽 直汲み あらばしり」
お酒に馴染みのある人でないとよく分からない単語が並んでいる商品名。
仙禽の初搾りが「初槽(はつぶね)」と呼ばれる種類。槽とは酒を搾るための道具のこと。搾る際の雫を、空気に触れさせずに直接瓶に汲み出すのが「直汲み」という方法。
そして「あらばしり」というのは搾りだす順番による名称であり、初めに出てくる酒が「あらばしり」、次が「中汲み(中取り)」、最後に出てくる酒が「攻め(責め)」と呼ばれている。
(過去記事”001人生も酒も、「攻め」時がある”参照)
搾って一番最初に出てくる「あらばしり」は、白ワインを彷彿とさせるような爽やかな香りとなっている。味わってみると口中に甘味と酸味が広がる、フレッシュさに溢れたお酒。「ジューシーな日本酒」という表現はこういうときに使うのだろうと感心してしまう。
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やり残したことばかりのように見えて、このエッセイを始めたのも今年であり、色々挑戦もした一年だったと気付く。来年もどうか、皆が健康で美味しいお酒を飲めるようにと祈りつつ、正月に飲む新酒を探して酒屋を巡る旅に興じる。