<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 004~> ラベルをまとって
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部下を持つようになってからは、自分の「見え方」にそれなりに気を遣うようになった。
やることをやればいい、というわけでもない。ストレスを溜めて外界をシャットアウトする空気を漂わせていたら、質問も相談もしづらい。いつもニコニコ、というわけにはいかないが、話しかけてもらえるような関係の構築と話しかけやすい雰囲気には留意するようにしている。
また時間を見つけて、いつもの酒場へ。疲労が蓄積しているときには、目でも日本酒を楽しみたい。
【一杯目】滋賀 笑四季酒造 「恋をするたびに… <最後の二人の秘密>」
蔵元の竹島さんと酵母の色恋を描く、という設定で作られたお酒とラベル。「選ばれた恋」「夢が覚める前に」など、サブタイトルを冠して何本か作っている中の1本。
ピンク色が示す通り、使っている酵母は花酵母。穏やかな甘みの中に、綺麗な酸が混じっていて、飲み終わった口をスッキリさせてくれる。
「二人の秘密」というタイトルも意味深な、見ているだけでアレコレ想像が膨らむ面白い瓶。
最近は凝ったラベルも多くなってきた。酒屋で見て、心惹かれた人も少なくないだろう。
【二杯目】新潟 加茂錦酒造 「荷札酒 月白」
荷札を模したデザインがオシャレな、まだデビュー3年目の新ブランド。
造り手の田中さんはまだ20代前半、もともと電子工学を専攻していた理系男子という話題性も含め、一気に全国に名前が知られたお酒。
華やかさを抑えた香りに、口に含むと静かに広がっていく旨味。
雑味も感じないまま飲み込むと、しっかりキレを感じられて思わず幸せの溜息。
【三杯目】青森 八戸酒造 「陸奥八仙 クリームソーダボトル」
「dot SAKE project Vol.3」と銘打たれたお酒。「dot SAKE projectは、東京・恵比寿の日本酒ソムリエである千葉麻里絵さんが、日本全国の酒蔵と共に日本酒の新しい楽しみ方を提案するプロジェクト。ボトルにプリントされたモチーフの「ドット」と、日本酒に「どっと」人が集まるというダブルミーニングになっている。
一番の特徴は酵母で、ビール酵母を使用しているという変わり種。
薄っすらとオリ(出来たての酒に残っているお米の破片や酵母)が絡んで、アイスが溶けたメロンソーダのような乳白色。
気泡が踊るグラスを一口傾けると、シュワッと甘酸っぱい炭酸。日本酒が苦手な人でも飲みやすい一杯。
気になるのはラベルのQRコード。読み取ると、製造秘話が見られるという芸の細かさ。遊び心も、人を惹き付ける魅力。
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上司に、部下に、友人に、家族に。自分も様々なラベルをまとって生きている。
ときに着心地の悪いものでもスマートに振舞わなきゃいけないこともあったりして、汗かいて苦笑いしている自分を重ねながら、瓶の結露を眺める夜。