<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 005~> 禁断の果実を日本酒で
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忙しい時は食事がバタバタしがち。
朝はご飯をかきこんで子どもの送迎準備に取り掛かる。早く起きればもっと余裕ができるのに、といった自省は、「ギリギリまで寝てたいし!」という欲望の前に無かったことに。
会議が長引いたときの夕飯は、会社の近くでセルフうどん。混んでいるときは天ぷらを迷う余裕すら後ろからの圧力の前に霧消してしまう。
こんな中でふと、ゆっくり果物でも食べたくなる衝動に駆られる。そんなときはどうしようか。そうだ、日本酒で果物を食べた「つもり」になろう。
【一杯目】秋田 阿櫻酒造 「阿櫻 もぎたて りんごちゃん」
ラベルのキャラクターが可愛らしい一本。
その見た目以上に膨らみのある味わいでジューシーな美味しさを感じられる。夏に飲みたくなる白ワインのような酸が口の中を心地よく刺激して、何杯でも飲めてしまいそう。アルコール度数も12度と低く、日本酒に馴染みのない人も飲みやすいお酒。
「りんご」をアピールする日本酒も最近増えてきているが、別に林檎そのものを使っているわけではない。これは、リンゴ酸の話。
日本酒には何種類かの酸が含まれており、酸が多いとキレがよく飲んだ後もきりっと締まるお酒に、酸が少ないと丸みのあるお酒になると言われている。
含まれている代表的な酸の一つがリンゴ酸だ(他には乳酸やクエン酸がある)。その名の通り、果実の林檎にもたくさん含まれている。刺激的で、それでいて爽快感のある酸味が、お酒の味に面白い変化をもたらす。
この独特の味わいが、日本酒に慣れていない方やカクテル・ワイン好きの女性にも受け、各メーカーが同類の日本酒を醸し始めている。リンゴ酸を大量に出す酵母も開発され、その人気は年々増していくばかり。今やすっかり注目のお酒なのである。
【二杯目】千葉 飯沼本家 「甲子 林檎(KINOENE APPLE)」
リンゴ酸をこれでもかと含んでいる千葉のお酒。
林檎というよりは、トロピカルフルーツジュースのイメージ。
甘酸っぱくて、爽快で、飲んだ後のスッキリ感に驚く。これだけの香り、甘みが強いかと思いきや、酸味とのバランスが良くてスイスイ進む。
暑い時期にキンキンに冷やしてガラスの酒器でクッと飲みたくなる味わい。
飲むだけ飲んだ結果、「やっぱり果物も食べたい」という当たり前の結論に達して苦笑い。まずは土日から、いずれ早起きして平日の朝にも、食べたいと思うものを余裕をもって食べられたら幸せだなあ、と思いつつ、深酒にならないよう店を切き上げ、電車に飛び乗る東京の夜。