<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 010> “シンプル”に心惹かれて
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新しく部下が増え、プロジェクトも増え、バタバタの日々。出張があり、戻ってきたら打合せ、資料をチェックしてExcelで分析を進める。ごちゃごちゃしてくる紙の山、デスクトップに一時的に保存したファイル、そして頭の中。
何もかも忘れてヨーロッパにでも飛び立ちたいと思いながらも、金銭的な余裕もそんなにあるわけではなく、何より「それをやったら再来週の作業量がとんでもないことに……」という不安が脳を更に埋め尽くしていく。
頭がごちゃごちゃしたときには、お酒を飲んでリラックスするに限る。こんな日はデザインの凝った素敵なラベルではなく、白い紙に銘柄だけ書かれているようなシンプルなものを。
【一杯目】福島 花春酒造 「こうざし」
飲食店限定流通の商品。最近はこういう、一般の人は買えずに日本酒居酒屋に行った人だけが飲める、というお酒が増えてきた。日本酒居酒屋の人気が更に高まると良いんだけど。
「こうざし」という名前は、蔵の所在地である会津若松市の神指町から取ったもの。
飲んだ瞬間に鼻から抜けるフルーティーで華やかな香りは、ライチや洋ナシのような瑞々しさがある。甘みも綺麗で、スッと口に入っていく日本酒。
そしてラベルがシンプル。踊るようなひらがながどこか可愛い。
【二杯目】三重 瀧自慢酒造 「名張乙女」
素敵なお酒の名前は、文豪・田山花袋がこの地を訪れて書き記した「名張少女」という小説が語源らしい。ラベルの字の崩し方が独特で、見てると結構面白い。
香りは華やかというか、優しい。柔らかな口当たりでホッと一息つける。
蔵元の方に釣り好きな方がいるらしく、そのせいなのか魚介類にピッタリ合う食中酒。しっかり肴を準備して味わいたい。
【三杯目】京都 池田酒造 「池上 CLOUD」
もはや崩し字もないラベル。名前と”CLOUD”の雲のデザインで、「京都っぽくて良いな」という印象を持つ。このシンプルさが逆にオシャレで、じっくり見てしまう。見ているうちにCLOUDという名前は蔵人とかけていることにも気づいた。
口当たりはさっぱりとしてるけど、酒の力が強く、徐々にしっかりした旨味が広がる。冷酒でもいいけど、ロックにしても良い一杯。どっしりした味わいなので、フライ系や角煮、シチューといった味の濃い料理にも合わせられるだろう。
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すっきりした頭でもう一度自分のやることを整理すると、1つ1つはそんなに難しくないことに気付く。焦らないこと、行き詰まりそうなら整理すること、ときにはこうして頭を空っぽにすること。当たり前のことに改めて気付き、日本酒に感謝してみたり。