<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 019> 冷酒とひやおろしの間に
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7月頭から7月末、更に8月末に延期した家族旅行は、情勢を踏まえて10月に再延期した。3度目のリスケとなると、フライトの変更もレンタカーの予約・キャンセルも慣れたもので、すいすいと手続きを終えられる。
もっとも、宿泊予定だったホテルは、10月以降の予約受付はまだ未定とのこと。ひょっとして経営状況が芳しくないのか、予約どころの騒ぎではないのではないか、と不安が募ってしまう。子どもも首を長くして待っている一大イベント、どうか無事に行けますように。
前回は夏酒の話をしたが、この時期、既に秋の酒が登場している。時の流れは速いもの、早速味わってみた。
【一杯目】
群馬 龍神酒造「尾瀬の雪どけ ひやおろし」
実は前回のエッセイで、この夏酒を紹介したばかり。
尾瀬の雪どけが滞積してできた「龍神の井戸」と呼ばれる名水の流れる場所に蔵をつくったのが発祥と言われている、非常に歴史のある酒造。
一口目から口の中で暴れ出す重厚感、されどフルーティーな甘み。ふくよかな味わいが最後までずっと続くけど、飲み心地は重くない。相反するような日本酒の美味しさが見事に同居している。
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夏酒と言いながらも、早いものは5月末くらいから飲める。そして秋の酒として親しまれているひやおろしも、こんな盛夏から出始める。どちらも美味しいのだけど、時期をやや外しているので、季節と味わいがしっくり来ないことに時折小さな不満を抱くこともある。
そんな中で見つけたのが、このお酒。
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【二杯目】
福井 三宅彦右衛門酒造 「早瀬浦 涼み酒」
福井といえば「黒龍」が有名だが、この早瀬浦も非常に飲みやすい良酒。今回のお酒は「涼み酒」という名前が付いている。
色はやや黄色みを帯びている。フレッシュな爽快感もありつつも、しっかりと酸味もあるのが良い。夏の暑さに酸味はよくマッチする。キレもあって、食中酒として優秀なお酒。
何より、「長く続く暑い夏に楽しんでもらうために、仕込む時期を夏酒とひやおろしの間にずらした」という考え方が素晴らしい。「マーケティング」と言ってしまえばそれまでだけど、飲む人がどんな風に日本酒を味わいたいかをちゃんと考えて醸している、その気遣いに感心頻り。
こうしたお酒をきっかけに、この時期の新しい日本酒の文化が生まれるかもしれない。良い物に巡り合えた。
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まだまだ夕涼みには早い季節。暑さが辛い日々だけど、去ったら去ったで寂しくなるのだと思うと、ちゃんと2020年の夏を感じておこうという気になり、昼休憩で散歩をして青空を雲を眺めたりする。