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有難味という味わいについて【友美の日本酒コラム001】おとついからの二日酔い

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はじめに

「コラムを書いてよ」「取材の裏話も読んでみたいな」とお客さまから言われ、う~んと唸った。お客さまというのは、日本酒ライターのかたわらで雇われ女将として立たせてもらっている店(日本酒バーと小料理屋)に来てくれるお客さまたちのことだ。ちょこちょこ休みをとっては酒蔵の取材や勉強旅行に行かせてもらっているので、帰って来るたびに店で土産話をする。その話をまとめて読みたいというのだ。しかし、日本酒一色の毎日を送ることが一風変わっているだろうとは思うけど、当人からしてみればそれが日常。日本酒びたりの生活が当たり前なので、他人様が読むのになにが面白くて、なにに喜んでもらえるのかとうとうわからないのである。店での対話、会話とは勝手が違う。レポート記事とも違う、些細なことが知りたいという。これは困った。

 

言うなれば、日本酒はただの液体である。アルコールを含むので、飲むと酔っぱらう。「酔うと味が判断つかなくなるからなにを飲んでも一緒!」という人さえ多くいる。それなのにも関わらずなぜ、日本酒ができるその裏側の話を聞きたいのか?なぜ、どんな人がどうやって造っているのかを知りたくなるのか?

その理由は「理由が欲しいから」だと思うのだ。みんな、全国各地にある地酒のなかから、あるいは幾多あるアルコール飲料のなかから、果てはお酒を飲むと(車の運転ができなくなるなど)行動が制限される。だからこそその夜をお酒に預けてしまえる、理由が欲しいのではないか。わたしたちの日々は選択の連続。自由という名の鎖でがんじがらめ。だからこそ、ただ「おいしい」だけじゃない、なぜおいしいのかという、その酒を「選ぶ理由が欲しい」のだ。

失恋したとき、仕事でしくじって落ち込んだとき、誰かを傷つけて考えごとをしているとき…食欲がなくなったり、味を感じないという経験はないだろうか。味わいは味蕾(みらい)を通して、脳に伝わり感じるはずのもの。それが、たしかに食事をしているはずなのに味がしないことがある。美味しいとも美味しくないともなにも感じない。それだけ私たちの味覚は、気持ちに大きく左右されるものなのだ。ということは、その逆もしかり。本来持つ味以上に、さらに美味しく感じることだってある。

 

愛知県にある「醸し人九平次」を醸す萬乗醸造の九平次さんは、「わたしは文化を創っている気持ちは微塵もございません。そもそも現代を生きる者が文化を語るなんておこがましい。美味しいものや感動を伝え続けるなかで、振り返ってみると文化になっていた、というものだ。」と言う。もちろんその通りだと思うし、造り手として立派な考え方だと思う。でも、飲み手が勝手に「わたしはいま、日本に脈々と継がれている文化、日本酒を飲んでいるんだー!」と感動するのは自由だ。500年以上続くといわれている「剣菱」は、赤穂浪士が吉良邸討ち入り前の景気づけに飲んだ酒とされている。語り継がれ多くのファンを持つ大人物も同じように日本酒を飲み、酔っぱらったりしていたのかと思うと、歴史好きでもなんでもない、なんなら勉強不足で少し疎いわたしでも、急に時代を飛び越えて「同じ人間なんだなぁ」と身近に思えるから、本当に面白い。

そんなことを考えていてふと「有難味を噛みしめる」という言葉がなんとなく浮かんできた。”有難い”っていうのは、「またとないほど尊い。めったにないことに感謝する」という意味。「これは貴重なものだ。なんて有難いんだ」とモノを口にするとき、思考と感覚がズバッと繋がって無限の美味しさが口内にも、脳にも、鼻腔にも広がる気がする。しみじみと旨味を噛みしめる。芸能人が格付けしあうテレビ番組を見てわかるように、同じものでもスーパーで買ったものだよと出されるか、一流シェフが料理したものだよと言われるのかで感じ方が180度変化する。

そういう意味で、日本酒には”有難味”みたいなロマンを感じる余白が実にたくさんあると思う。酒米の種類、田んぼの場所、育て方、麹菌の選定、蔵の歴史、会社のドラマ、あらゆるタイミングやつくり方。田んぼからテーブルまで関わる人たちの思考によって無限の広がりがあるし、すべてに人間が関わっている。人間のいるところにはドラマが展開される。

「文章や書いているわたしが面白いのではない。受け取るあなたが面白いのだ。」と好きな作家が言った。受け取る側に感受性や、味付けするための経験と知識がないと物語は味気ないままなのだと。酒も同じかもしれない。日本酒をただのアルコール飲料と思わずさらに美味しく飲むためには、味わいの経験だったり、裏付けをする知識が必要だったりするのかもしれない。だから全国の酒蔵を取材して歩き、年がら年中日本酒にまみれた生活を送るわたしが面白いと思わなくても、展開される人間ドラマをあなたが面白くさせ、「有難味」という味わいを見出すのだ。

 

タイトルの【おとついからの二日酔い】は矛盾をはらんだ言葉だが、飲んでも飲んでも学習せず、懲りることなく飲みすぎてしまうわたしの日本酒への片思いの気持ちと自戒を込めた。今夜日本酒を飲もう、なにを飲もう?と選択する場面において、あなたなりの理由を見つける糸口になればいい、と心もとないながらもコラムを書き続けることをここに誓います。年間2000種近くの日本酒を口にするわたしの日本酒偏愛が、読み手のみなさんの好奇心と知性によって化けるならこんなに幸せなことはない。

 

 

※おとつい…地元北海道の言葉で「一昨日=おととい」の意。

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

友美

日本酒ライター/コラムニスト
飲食店向け日本酒バイヤーや日本酒BARの看板娘を経て、「とっておきの1本をみつける感動を、多くの人に」という想いから初心者向けのイベントやセミナーの主催や記事を執筆。昭和59年度生まれの5人の酒蔵跡取りが集結した信州59年醸造会、通称「59醸(ゴクジョウ)」にサポートメンバーとして参加するなど活動の幅を拡げている。
寒さに弱い北海道出身。
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