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言い訳でも遠吠えでもない「挑戦者の主張」を受け入れる新時代【友美の日本酒コラム015】おとついからの二日酔い

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先月5月17日に、令和になって最初の全国新酒鑑評会の結果発表がありました。普段「蔵や地域の特性を出そう」「顧客ニーズに合わせて」という考えをもって酒蔵は商品製造するのに対して、この鑑評会は”日本酒界のF1レース”などといわれています。

あらかじめどんなものが評価されるのかという共通認識のもと、そこを目指して出来得る限りの技術力を発揮し、オフフレーバーと呼ばれる醸造上の欠点を出さないことに精神を集中し、その”作品”を審査員の減点法によって品定めされます。F1のために開発された車が通常流通するわけではないように、出品されたお酒はもともと市場に出回らないことがほとんど。他のコンペティションとは一線を画すものです。

今回、全国の蔵から857点出品、416点が入賞。さらにその内の237点が金賞受賞という結果になりました。なかでも福島県は、金賞銘柄数22と都道府県別で見ると全国最多となり、7年連続の「日本一」に輝いたそう。参考までに他県の状況を見てみると、都道府県別金賞数は秋田18、兵庫16、新潟15、長野14というから、福島県の安定した受賞率を実感します。この功績をたたえて「福島県V7!」などという文字がニュースを賑わわせていました。その影響もあるんでしょうか。日本酒にまったく興味なかった、北海道の父から「(お前が手伝ってる播州一献は)全国新酒鑑評会どうだったんだ?」とLINEが。いやぁ、びっくり!

さて 今回の鑑評会結果の日は例年以上に緊張感をもって迎えました。自分の関わった酒が出品されるからには、できれば金賞を受賞して欲しい。蔵人みんなの努力が報われて欲しい。ファンのかたがたに喜んでもらいたい。そう思うのは当たり前のことでしょう。しかし結果は、現在の杜氏になって初めて金賞だけでなく受賞も逃してしまいました。ごめんよ、お父さん。

たしかにショックだったけれど、冷静に振り返れば「播州一献」は昨年11月8日の火災以降、酒造りが続けられただけで十分だったはずなんです。その後更なる事故もあったのに、みんなが生きて元気でいられるだけで、神様に心から感謝したわけですよ受賞を逃した原因追究は必要だけど、落ち込む必要なんてないと思えました(そもそもわたしが落ち込んだところで無意味なんだけど)。

金賞を受賞した酒蔵はみんな「無事金賞を獲得できました。これもひとえに応援してくださる皆様の…」とSNSやホームページで発信するのが常になっています。受賞した酒には「金賞受賞酒」という首掛けをしたり、蔵の外観に「全国新酒鑑評会〇年連続金賞受賞!」などと横断幕を掲げたり。

賞を逃した蔵は沈黙するものだけど、「ありがとうございます。お陰様で出品酒を造ることができました。そのことにまずは感謝です。」と今回は言うべきなんじゃないか。腫れ物に触れるようみんなから気遣われるより、素直に前向きな姿をさらけ出すほうが適してるんじゃないかと思えました。現に壺阪杜氏は自らのコメントをSNSで発信しています。他にも同様の蔵が散見されました。

その二日後、とある酒屋主催イベントでご一緒した「富久長」の今田美穂杜氏。「カンパイ!日本酒に恋した女たち」の映画にも出演中の彼女が打上げでポツリと言います。

「今年の鑑評会は、受賞していない蔵が発信してたんだよね。あれ見て”あ~、時代は変わったんだなぁ。新しい時代になった”って思った。あれはイイよね!だってさ、頑張ってない蔵なんてないんだもん。マズイ酒造ろうとしてる蔵なんてひとつもない。いいじゃない。『真剣に頑張りましたけどダメでした。来年また頑張ります。』って言ってまた頑張れば。」

美穂さんは決してわたしを意識して言ったわけじゃないんだけど。言葉には、技術者としての実感と、今にも潰れそうな蔵を再興してきた蔵元としての説得力が込められていました。彼女の人間性と杜氏として手探りで歩んできた長い道のりに思いを馳せます。

良い人が造るから良い酒ではない。やはり美味しい酒を造らないことにはお話にならない。しかしその美味しさは、必ずしもひとつの物差しで計れるものではないのかもしれない。これからの時代、切磋琢磨し合える環境のなかで、日本酒がより盛り上がっていくことを願わずにはいられません。わたしも美穂さんのように、いつまでも柔軟な発想でいたいな。

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
日本酒アドバイザーや飲食店勤務を経て、現在は「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の持つ味わい、文化、食事との相性、風土、歴史、人情など様々な日本酒の楽しみ方を提供。記事の執筆、イベントやセミナー講師および主催、日本酒専門店の女将としての接客業務など多角的な活動を通じて、日本酒のおいしさと日本文化の豊かさを伝えている。現在兵庫県の山陽盃酒造にて蔵人として酒づくり中。
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