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胸をときめかせはしごを登ったあの頃に【友美の日本酒コラム014】おとついからの二日酔い

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今わたしは東海道新幹線の車内でこれを書いています。

席は、コンセントがあるいつもの窓側A席。ふと目をやれば、車外には青空と春らしいまばらな雲、瓦屋根と畑、その向こう側にはまだ明るいのに点灯している大型量販店があって「どこの田舎もだいたい一緒だなぁ」なんて、目が回らない程度に風景が流れていくのをぼーっと眺めています。

北海道生まれのわたしは、上京当初――かれこれもう10年以上になるんだけど、ロマンスカーと新幹線の見分けがつかなかったくらい、なにもわかりませんでした。北海道はご存知の通り、最近まで新幹線が通っていないし、わたしが子供の頃には“電車”ではなく“汽車”が走っていたほど

そんな感じだったから、わたしが新幹線に乗る日は、楽しみと緊張とでソワソワしたなぁ。それにも関わらず、乗り損ねてホームに取り残されたことも。発車メロディとか、けたたましいアナウンスがあると思って油断して、のんびりお弁当を買っていたら、目の前で友だちが先に乗車した新幹線の車体がスーッと目の前を去って行くのが見えます。売店のおばちゃんに「あれって、わたしの乗るはずだった新幹線ですかね?」と聞いていたことを懐かしく思い出します。新幹線って本当に静かに発車しますよね~。

 

それがいつの間にか、旅行や出張で慣れてあの頃の気持ちなんてとっくに忘れて。必死に景色を追うこともなくなりました。今だってそりゃあ新鮮な景色はたくさんあるけれど、3時間ずっと窓の外を見ているなんてことは絶対にないわけですよ。

そんなある日、とある女の子がInstagramのストーリーで酒蔵見学の様子をアップしているのを見てハッとしました。もろみタンクに掛けられたハシゴを登りながら「はじめて登るよー!すごい!」と言って興奮している姿。

「しっかり足もとを見て!危ないよ!」と思うのと同時に、その無邪気な満面の笑みが胸を突きます。はしごを登った先には、ピチピチと発酵を続ける可愛いもろみが待っています。

あぁ、わたしはまだ新幹線に慣れなかったり、酒蔵を見学できるというだけで心躍ったあの頃の気持ちを思い出せるだろうか?酒屋に走って行ったときめきをまだ持っているだろうか?飲んだ瞬間「美味しい!」と素直に言える感覚を忘れていないだろうか。初心を忘れたままで、新鮮な感動を人に伝えられるだろうか?笑顔の素敵な彼女から、大切なことを思い出させてもらいました。

誰にでも最初はあって、よちよち歩きの一年生時代があって、触れるものすべてが新鮮だったり、「間違ったことしたらどうしよう」「変なこと言ってカッコ悪くなったら嫌だなぁ」とおどおどしていたりします。なのにいつしか、何も知らなかったことを忘れて知識をひけらかしたり、自分の考えを押し付けはじめたりしちゃうんです。思想はあってもいい、嗜好もそれぞれです。だけど、どうか自分と違った感想を否定しないであげてください。しったかぶりしないでください。日本酒がいま、頭打ちになっている原因のひとつとして、「マニアのためのお酒」になっている点があります。日本酒を飲んでいるとカッコいい、というプラスの点に働くならまだしも、わかりにくくて閉鎖的な世界になってしまっているんじゃなかと懸念しています。

日本酒の世界に「和醸良酒」という言葉があります。

・和を以て良酒を醸す
・良酒は和を醸す

せっかく和を以て醸されたお酒。飲む段階で小難しいものにして、誰かを否定したりするのはなにか違います。みんなで楽しく飲みたいですね。自戒の意味も込めて。

 

いやはやそれにしても、日本の新幹線が飲んでても怒られない、寛容な文化でよかった!久しぶりの移動飲みに、カンパーイ!

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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