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わずか50センチの至近距離に津軽三味線!山影匡瑠さんをお迎えして【友美の日本酒コラム011】おとついからの二日酔い

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YouTuber…とは言えないが、映像配信を始めた。赤坂の『食・酒・音 箱庭』のオーナーである川﨑まりさんとともに、まだ生まれたてホカホカのこの企画『マリとものんびり酒場』は、まりさんと私が飲んでいるところにゲストを招いて、一緒になって日本酒と料理のマリアージュを体験するというもの。ゲストにまつわる話や想い、思い出の日本酒のことなど、展開する様々な話を通して、観ている人たちに日本酒を取り巻く楽しい人間関係や、奥行きのある世界観を知ってもらうことを目的としている。先日撮影を終えた回のゲストは、山影匡瑠(まさる)さんだった

ご存知のかたもいるだろう。最近、蔵元を囲む会、酒蔵開放など、日本酒のあらゆるシーンで見かける三味線奏者が彼だ。本当に多くの場所で見かけるし、必ず楽しそうにみんなと酒を酌み交わしている。本当に日本酒が好きなのだろう、利き酒師の資格もお持ちと言うではないか。わたしの彼に対する第一印象は、ウェーブがかった白髪交じりの長髪をなびかせる大きな背中。まるで熟練のハードロッカーが着物を着ているようにも見えた。改まって話す機会がなかったので、撮影日をとても楽しみに迎えた。

神奈川県川崎市に生まれた山影さんは、母親の影響で民謡を習い、10歳になり楽器に興味を持ち、津軽三味線のお師匠さん(佐々木壮明氏)に師事。18歳でプロギタリストを目指すため、三味線を辞めるも、バンド解散をキッカケにして、33歳ふたたび津軽三味線の道へ戻った。

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バンドマン時代の音楽性を質問すると、「サウンドはゴリゴリのハードロックで、重いベースが響く感じ。だけどメロディーラインはミスチルみたいにポップなんだよね。」と言われた。うーん。私の音楽知識のなさも相まって、まったく想像がつかない。

 

「いつかライブのあとで突然、武田真治さんが楽屋に来て“あぁ、君たちか。すごくクサい歌詞を歌っているのは!”とだけ言って去って行ったんだよ。あれは一体何だったんだろうなぁ。」と、山影さんは思い出し笑いした。わざわざ楽屋に行って伝えたくなるほど、よほど衝撃的で印象に残るバンドだったのだろうと思う。その時のバンド経験が、三味線に持ち替えた今にも活きているそうだ。

トークだけでなく、演奏も収録させてもらった。50cmという至近距離で津軽三味線の演奏を聞くのは、もちろんはじめて。津軽三味線は、通常の三味線と違って棹(さお)が太く、楽器自体も大きく、大音量が出るから、弦楽器というより打楽器のような迫力がある。

 

最初の3音で、一気に圧倒されてしまった。心をまるごとバチで弾かれて、かき鳴らされているような、意識そのものが共鳴しているような、不思議な感覚に引き込まれる。店内でこの迫力だ。酒づくりをしていないオフシーズンに酒蔵ライブをすると、空っぽのタンク全部に反響して素晴らしい音響効果になるというが、想像をしただけで鳥肌が立つ。津軽三味線の音色には、心を鼓舞されて、人に生気を取り戻させるチカラがあると思う。

 

正直に「羨ましい」と感じた。文章は、読み手の感受性や教養に委ねるところが大きいが、音楽のチカラは、言葉や文化を超える。説明不要、飲むだけで心躍るという点では、日本酒も同じかもしれない。「おいしい」と思えば、皆が「Delicious(英語)」「Delicioso(スペイン語)」「美味(中国語)」と好き勝手に言うことができる。言葉は無くとも、長い歴史や人々の努力を包括して、現代の日本を伝える。「こりゃあ、ズルいな~」ニヤリとして酒をすすった。

コンサートのような場所ではなく、江戸時代のように大衆芸能として、身近に三味線を味わうのはたしかに粋だ。生活の一部になるとは、なんて素敵だろう。「三味線をはじめよう!と気軽に思ってもらえるような環境を作りたい。」と山影さんが言うように、興味を持てば演奏側に回ってもいいだろう。

今後、多くの観光客が日本を訪れる。楽器は言葉を要しない。こうした共通体験が私たちを繋いで、言語の違いを助けてくれるのかもしれない。3月21日『春分の日』は、昼と夜が同じ長さになる、春の訪れを祝う日。新しい季節を迎えた今、未知なる挑戦を始めるにはぴったりのタイミングだろう。いやー、わたしも津軽三味線はじめようかなぁ!

 

  •  All photo by Natsumi Sato
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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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