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HAPPYヤケ酒という日本文化【友美の日本酒コラム012】おとついからの二日酔い

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小料理屋のカウンターに女将として立っていたある日、日本人数名とアジア系アメリカ人のお客様が目の前で飲まれていました。目じりのお化粧も落ちそうなほど大笑いしながら、冗談を言い合っている中で、日本人のお客様が「じゃあ、今日はヤケ酒だなぁ!ハハハ!」とおっしゃいました。アメリカ人のお客様は、日本の文化や言葉をよく知っているかたですが、聞き慣れない言葉に目を丸くします。

「ヤケザケってなに??」

「ヤケ酒っていうのは仕事で辛いことがあった時とか、失恋した時とか、上手くいかないことがあったり、落ち込んだ時に「お酒を飲んで忘れよう!」って感じ。」「その時飲むお酒や、その行為のことを”ヤケ酒”と呼ぶよ。」拙い英語を駆使し、総出で説明をします。

「あぁ、なんとなく意味がわかった。」と言うより次に、「え?じゃあすごく悪い、やけっぱち、捨て身っていうことだね。それは最悪の状況だね。バーの片隅でアル中みたいに飲んでる感じ?」そう言って顔を思いきりしかめますが、あくまでも彼のちょっとした失敗談に対する冗談めいた表現だったので、わたしたちはまた閉口し、「うーん?」と考え込んでしまいました。

※(出典:デジタル大辞泉)ヤケ酒・自棄酒・・・やけになって前後の見さかいもなく飲む酒。(出典:精選版 日本国語大辞典)やけになって飲む酒。思うとおりにならなくて、自分で自分を痛めつけるようにして飲む酒。

居酒屋のカウンターの端っこでひとり、絶望しながら「べらぼうめ…」とかブツブツ言って、ひたすら酒を煽っている――なんていうステレオタイプな”ヤケ酒”している人は今どきそう見かけません。いや、まったくいないかっていうとそうでもないかもしれないけど、なんとなく深夜食堂だったり、昭和のドラマっぽい気がする。今はもっとライトに「今日はヤケ酒だぁ!」なんて使われている気がするのです。

 

もとい「ふんっ、ヤケ酒しちゃうもんね!」とさほどでもない悲しみの局面で気軽に主張することで、すでにストレス発散しているのかもしれません。友だちだって「それなら付き合うぜ!」と優しくできるってもんです。その日飲む口実にもなります。店側の人間だって、常連さんがちょっと寂しそうに酒を傾ける日には、放っておけず、優しくしてあげたいな、元気出して欲しいなって思っちゃいます。人に聞いてもらったり、優しくしてもらえばそれだけでスッキリすることもあります。

そんなわたし達の、”ヤケ酒”という言葉の遣い方をようやく理解したアメリカ人の彼が、満面の笑みでひとこと。

「Oh!HAPPYヤケ酒!」

「なるほど!(笑)」

手を叩いたり、膝を打ったりしながら、わたし達はまた笑い合います。真逆の意味合いの日本語と英語がくっついたヘンテコリンな言葉だけど、たしかに最悪な『Terribleヤケ酒』と嫌なことからの切り替えとしての『HAPPYヤケ酒』が存在するのかもしれません。ヤケ酒と聞いただけでは、そこまで深刻だとは思わない。その日限りのものかなって思える。ちょっと自虐的な日本ならではの文化なんですかね。海外ではない文化なのかな。日本の文化・ヤケ酒セラピー、とでも言えるかもしれません。だからって毎週「今日はヤケ酒だぁ!」なんてことがないよう、ほどほどに。

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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