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あなたはもうすぐ死にます。最期に飲みたいお酒を選んでください。【友美の日本酒コラム010】おとついからの二日酔い

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「あなたはあと3時間後に死にます。最期に飲むお酒を選んでください。」

 

都内にある焼き鳥屋で、4人話していた。メンバーは「日本酒好きが行き過ぎためがねのサラリーマン」「日本酒関連の仕事をする日本人ヒゲ男子」と「飲食業界のアメリカ人男性」…という3名の友人と、そしてわたしだ。

めがね氏が言った。

「死ぬ間際に飲みたい日本酒ってもう決まっていますか?僕はそれを探して、色んなお酒を飲んでいるような節があるんです。」彼はまるで、死ぬときには仏様なのかエンマ様なのかに、”死ぬ前に飲みたい一種類の酒”というのを聞かれるのが当たり前かのよう、わたしたちにそう尋ねた。

 

「そうなんだぁ。」とほんの一瞬だけ2人微笑んでから、ヒゲは迷うことなく「もちろん決まってる。ずっと変わらないよ、これから先も。」と言う。わたしも追って「TPOによって飲みたいお酒はそれぞれあるけど、死ぬ間際に飲みたいお酒はひとつだけ。」だと伝える。電話で中座していたアメリカの友人にも聞いてみる。片眉を上げながら「あぁ、そりゃあ決まってるよ。」とスラスラと答えを返してくる。みんな心の中に確固たる一本を持っていた。

ヒゲが言うには「喜久酔 特別本醸造」

彼をどっぷり日本酒の道に引きずり込んだほどの衝撃を与えたこのお酒は、日本酒の道を歩きはじめた頃のメンター※から教わった、もとい共有した思い入れのあるものだった。数多ある日本酒を利くうえで軸になっていて、なにがいいのか、なにが正しいのか、なにを勧めればいいのか、感動とはなんなのか。迷ったときの心のより所であり、立ち返る場所なのだ。10年以上日本酒に携わってきた彼には、悩む瞬間も多々あったのだろう。「この一本がいつも心にあるから、とても楽なんだ。」と真っ直ぐにブレない瞳で言う。

 

※人生・仕事における「助言者」「教育者」「理解者」「支援者」「指導者」の意味。

わたしにとってそれは「龍力 大吟醸 龍仕込み」だ。この蔵の代名詞ともいえる兵庫県特A地区産「山田錦」100%使用した、大吟醸の生酒。もうこの商品は存在しないそうだから、今でいうところの青ドラゴンの生酒だろうか。

振り返ると、現在のライフスタイルを確立する(本当の意味での)スタートラインに立ったころに飲み、感動を受けた。「味わいは?」「香りは?」「酵母は?」などと頭で色々と考えてしまいがちだけど、気がつくと「おいしい……」とひとりごちていた。優等生で、どこかヤンチャで、熟成の可能性も感じさせられる。それからしばらく経って、まったく別の場所で同じような衝撃を受ける美味しいお酒に出会った。実はその2つは、ラベルが違うだけで中身はまったく同じ物だったというのだから、わたしは2度このお酒に恋に落ちたことになり、内心ニンマリしたのを覚えている。

うんちくを語るオジサンがたくさんいて、大好きな飲み屋のカウンターで日本酒を飲みにくかった10年以上前。知識や経験がなくても、若い女性だって「おいしい!」と酒場で発言できるような世界が訪れて欲しい!…そう願ってこの世界に飛び込んだ自分の初心を思い出すだけでなく、「嗜好品だから何でもいい、というわけではない。”美味しい”の基準は存在する」という自分の信念を確かなものにしてくれる大切な一本だ。

そしてアメリカの友人は「テキーラ」

テキーラよりも、どちらかといえば日本酒とワインを愛する彼いわく「もちろん美味しかったお酒はたくさんある。でも、テキーラには僕の家族のストーリーがいくつも詰まっている。死ぬ間際に飲みたいお酒っていうのは、必ずしも最高に美味しいだけのお酒じゃないだろう?気持ちや思い出が詰まったものなんじゃないかな。」

 

わたしとヒゲは大きくうなずいた。酒の先には必ず「人間」がいる。その時の自分の心境や状況、その酒を一緒に飲んだ人、勧めてくれた人…かつてたしかに存在していた瞬間を思い出すために“死ぬ間際の酒”がある。めがね氏はこれから、どんなお酒を見出すだろうか。あなたならなにを選びますか?

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

友美

日本酒ライター/コラムニスト
飲食店向け日本酒バイヤーや日本酒BARの看板娘を経て、「とっておきの1本をみつける感動を、多くの人に」という想いから初心者向けのイベントやセミナーの主催や記事を執筆。昭和59年度生まれの5人の酒蔵跡取りが集結した信州59年醸造会、通称「59醸(ゴクジョウ)」にサポートメンバーとして参加するなど活動の幅を拡げている。
寒さに弱い北海道出身。
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