参加蔵はみんな昭和59年度生まれ、同級生!ー「59醸メッセ」レポート
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長野県の昭和59年生まれ5人が集まった、酒蔵跡取りユニット「59醸(ごくじょう)」。メンバーが30歳になった2015年に発足されました。毎年1つのテーマを設け、酒米を限定してそれぞれの酒蔵でそれぞれの59醸用日本酒を醸し、リリースパーティをおこなっています。4年目を迎える2018年は59醸メンバーのみならず、日本全国からおなじ昭和59年度生まれの酒蔵跡取りが、長野市に集結。8蔵元の話を直接聞きながら、全11蔵、38銘柄の日本酒を飲み比べできるイベントとなりました。
2018年の59醸酒テーマは「18金」、金紋錦使用
キレッキレでキラッキラ(北光正宗・長野県飯山・角口酒造)
村松裕也/昭和59年7月31日生
長野県内では珍しく、辛口で後切れの良い酒をつくる「北光正宗」。今回の59醸酒では、さらに「キレッキレ」でテーマの18金のごとく「キラッキラ」に光り輝いてしまうほどの酒をつくりました。日本酒度※は、+18。
- ※数値は含まれる糖の量によって水より重いか軽いかによって、糖が多いとマイナス。少ないとプラスに傾く。しかし計測されない糖や逆に甘みを感じにくい糖もあるためあくまでも数値的な計測。官能として一概には言えないが、酒づくりのための大切な指標のひとつ。一般的な日本酒はだいたい∓0~+2程度。
甘いだけじゃないんだぜ(勢正宗・長野県中野・丸世酒造)
関晋司/昭和59年10月21日生
通常おこなう3段仕込みという行程のあとに、もち米を投入し甘さを出すという”もち米4段仕込み”が特色の「勢正宗」。4段仕込みというのは実はさまざまな酒蔵で昔から取り入れられている手法のひとつです。しかしわたしたちが聞き慣れないのは、酒造業界のなかで奥の手といいますか、あまりポジティブな話題ではないから。その中で明言し代々引き継いできた「勢正宗」の4段仕込みの酒は全国的にもとても珍しく、蔵の個性と言えるものです。今回の59醸酒では今までとは違った試みをし、甘さはありながらも後半スッキリさせることに成功しました。
酵母ありきだけど 主役は俺(積善・長野県長野・西飯田酒造)
飯田一基/昭和60年4月1日生
長野県内唯一、全量花酵母で酒づくりをする「積善」。東京農業大学在籍中に花酵母を研究していた飯田一基さんが使う花酵母の種類はつるばら、ヒマワリ、ベゴニア、桜、月下美人など10種類を超えます。今回のテーマ「18金」に合わせてマリーゴールドの花酵母を使用したお酒は、いつも各花酵母の特徴を前面に出すことを中心に置いていますが、そこから一旦離れ「俺がつくりたい酒をつくってみよう」とチャレンジしたもの。かなり高めの酸度を感じさせることのない、調和のとれた旨味が特徴の「59醸酒」になりました。
ゴージャス エロ ターゲットは〇姉妹(本老の松・長野県長野・東飯田酒造)
飯田淳/昭和59年11月24日生
川中島古戦場と善光寺に近い犀川(さいがわ)河畔にある、創業慶応元年の歴史ある酒蔵。県外ではあまり見る機会がありませんが、地元産に徹底的にこだわった地酒「本老の松」をつくっています。仕込み水には犀川の伏流水、米は地元・長野市篠ノ井有旅(うたび)地区で契約農家栽培されている「美山錦」や、その他も長野県産のみを使用しています。今回の「59醸酒」は、普段のふくよかな味わいはそのままに、キラキラとまるで乱反射するような味わいの広がりや幅を見せ、飯田淳さん曰く「ゴージャスでふくよかな色気がある○姉妹に飲んで欲しい酒」が仕上がった。
曲名に「金」と入ったクラシックを18曲聞かせました。(福無量・長野県上田・沓掛酒造)
沓掛正敏/昭和59年11月13日生
上田で300年の長い歴史と伝統を持つ沓掛酒造は、弟の沓掛浩之さん(昭和64年生)が杜氏を、兄の正敏さんが経理等の事務に加えて蔵人として酒づくりを手伝う蔵です。沓掛正敏さんは、音楽の教師を目指して東京でピアノを中心楽器としクラシック音楽を学んでいたところ、実家である蔵に戻られた変わった経歴の持ち主。今回の「18金」というテーマにも、自身の得意分野・音楽で挑みました。
- 【59醸酒が聞いた、名前に「金」と入るクラシック18曲】
- ①ホルスト/組曲「惑星」より 金星《平和をもたらす者》
②ワ-グナー/楽劇「ラインの黄金」より序奏
③シベリウス/組曲「草花の組曲」より「金魚草」
④レハール/ワルツ「金と銀」
⑤ドビュッシー/「映像第2集」より「金色の魚」
⑥チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」より「金平糖の踊り」
⑦イベール/「物語」より金の亀を使う女
⑧サティ/「古い金貨と古いよろい」より「黄金を商う商人の家で」
⑨サティ/「金の粉」
⑩シューベルト/「4つの歌曲」より「葬列の金」
⑪ギロック/金魚
⑫ロッシーニ/オペラ「セビリアの理髪師」より二重唱「金を見れば知恵がわく」
⑬ドヴォルザーク/「糸杉(弦楽四重奏版)」より「おお美しい金の薔薇よ」
⑭ショスタコーヴィッチ/バレエ音楽「黄金時代」より序奏
⑮ヴェルディ/オペラ「ナブッコ」より合唱「行け、わが思いよ、金色の翼に乗って」
⑯ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」より「金の林檎と戯れる王女たち 」
⑰チェスティ/オペラ「黄金のリンゴ」
⑱ベートーヴェン/オペラ「フィデリオ」よりアリア「お金がなければ」
ちなみに、弟であり杜氏の浩之さんはクラシック音楽があまり得意でないため、最初からこのテーマで取り組んだわけではなく偶然浩之さんが蔵を不在にしたときに「今しかない!」と正敏さんが始めてしまったため、浩之さんも反対することができなくなったそうです。
長野県外の参加蔵について
澤乃井(東京都・小澤酒造23代目)
小澤幹夫/昭和59年12月11日生
西東京の端・奥多摩に位置する小澤酒造は元禄15年(1702年)創業、今年で316年を数え、59醸世代の小澤幹夫さんは23代目に当たります。山に囲まれた自然豊かな場所で、2種類の美しい水を使ってそれぞれに適したお酒を仕込むのが「澤乃井」の特徴です。ひとつは、「東京の名湧水57選」にも選ばれた秩父古生層を通って多くのミネラル分を含んで井戸に出てくる中硬水。もうひとつは、多摩川を挟んだ山から引く良質な軟水。昔ながらの生酛づくりには中硬水を、ワイングラスで飲みたくなるような軽やかなお酒づくりには軟水を使用し、それぞれの良さを最大限に活かしています。
甲子正宗(千葉県・飯沼本家16代目)
飯沼一喜(かずよし)/昭和59年9月28日生
江戸元禄年間、おそらく1688年~1703年に創業したのではないかと言われている飯沼本家の16代目・飯沼一喜さん。飯沼本家は平成5年より季節雇用の出稼ぎ杜氏から転換、杜氏を置かず製造責任者である川口氏を筆頭に、社員の若い蔵人の手によって酒づくりをしています。蔵のある「酒々井」という地名は、酒づくりに適した水が豊富にあるところという意味で、「酒の井伝説」が残ることにちなんでつけられました。まさに酒づくりにうってつけの場所。さらに穀倉地帯・千葉県産の酒米を積極的に使用し、工場に委託することも多い精米もすべて自社工場で、扁平精米という特殊な方法を用いておこなわれます。ただし「最後は人間の目と経験」という通り、歴史と新しい技術や若いチカラとの良質のバランスがこの蔵の特徴です。この日は、蔵を象徴するような2タイプのお酒を紹介しました。
かたふね(新潟県・竹田酒造店10代目)
竹田春穀/昭和60年3月10日生
新潟県は”端麗辛口の酒”のイメージが強いですが、「かたふね」は「米のふっくらとした丸さとスッキリ辛口が調和した適度な甘みがある酒が本来の酒の姿」だとし、今まで決して端麗辛口の酒をつくらなかったそう。新潟県上越市の海岸線にほど近い場所にあって、蔵は砂丘のうえに建っています。砂丘のなかを何年もの時間をかけゆっくりとろ過された綺麗な水を使って醸す酒は、ほどよく甘みと旨味がある上品な味わい。越端麗、こしいぶき、山田錦の酒米を主に使用、つくられる酒は450石と多くはないものの、新酒鑑評会など各賞を受賞する実力が認められた蔵です。竹田春穀さんは、59醸のリーダーである村松裕也さんと大学の同級生、同ゼミの仲間であり、ふたりは勉学をともにした仲だそう。
天明(福島県・曙酒造6代目)
鈴木孝市/昭和59年5月25日生
鈴木孝市さんは5代目、現在代表社員であり杜氏をつとめています。”時代とともに、自然とともに進化し続ける酒”、”食とともに人の輪のなかで幸せの舌鼓をうたせ続ける酒”をテーマに「天明」「一生青春」の2銘柄を醸す曙酒造。蔵の売上70%を占める「天明」は、食事とともにある食中酒がテーマで、”全量純米”、”ふねしぼり”、”冷温貯蔵”をし、”米の違い”、”ろ過と無濾過”によって酒質の違いを表現しています。「一生青春」は天明とは真逆で、華やかな香りに、芳醇な味わい、軽やかなキレ味をテーマにした、誰しもにひと口目から「おいしい」と言ってもらえるようなお酒。どちらにも共通して、日本酒が持つ季節感を大切にして、自由に楽しんでもらえる酒づくりを目指しているといいます。
富美川(栃木県・富川酒造店5代目)
富川真梨子/昭和59年8月18日生
「忠愛」「富美川」の2銘柄を醸す富川酒造店は、創業大正2年(1913年)で105年の歴史があるものの、今回参加のなかでは比較的新しい蔵。栃木県内で見ると、かなり早い時期から無濾過生原酒を市販した蔵で、全体的にきれいな酒質が特徴です。日本百名水の尚仁沢湧水を支流にもつ荒川べり、日光連山を仰ぎ見る場所に位置しています。フレッシュで品質の良いものを消費者の手に届けるために、搾ってすぐに瓶詰めし0℃のコンテナに酒を貯蔵する工夫を凝らしています。近年数多くの賞を受賞し、2010年に富川真梨子さんが蔵に戻り、蔵人として造りに入ってからも安定した評判を得ています。
香住鶴(兵庫県・香住鶴10代目)
福本和広/昭和59年8月4日生
兵庫県の北部にある香住鶴。特徴は、全量「生酛系酒母」で仕込むこと。古来より伝わる伝統的な技法生酛と山廃のどちらかでつくったお酒しか存在しません。冷たくして飲むのも良いですが、香住鶴の蔵の周りで採れる香住カニや松葉ガニ、但馬牛などと一緒にお燗酒にして飲むのにもとても適しています。次に、使用する酒米はすべて兵庫県産であること。兵庫県が名産の山田錦、五百万石、兵庫北錦が中心、さらに蔵人4名が自ら兵庫北錦を栽培しています。そして日本四大杜氏である但馬杜氏がつくるお酒であること。ふくらみにあって柔らかな旨味を十分に含んだ味わいが特長です。59醸世代である福本和広さんの現在の役職は社長付。蔵の跡を継ぐべく、社長のもとで経営を学んでいるそうです。
ステージでは各蔵元が今回の59醸酒、そして蔵についてお客さんとやり取りをしながら紹介しました。(僭越ながら、当日は私がMCを担当させていただきました。)
残念ながら来ることができなかった蔵は、参加メンバーのなかからゆかりのある人が代わりにステージに上がり、代理で紹介をしました。「同級世だったそうですが、大学時代、彼はどんな人でしたか?」など同い年ならではの話題も。
プロジェクト終了まであと6年!
30歳を機に長野県5蔵でスタートした59醸プロジェクトは、みんなが40歳になる年で解散しよう、それまでにそれぞれが力を備えて以後は”若手”としてではなく”先輩”として業界をリードしなくては。という意識で活動しています。4年目を迎えた今年、長野県内に留まらない日本酒業界全体を思わせる活動の広がりを見せ始めました。来年はどんな人たちを巻き込んで、どんなリリースイベントになるでしょうか。そしてどんな5本の59醸酒が完成してくるのでしょうか。今後もさらに目が離せない注目すべきプロジェクトに成長すること必至です。
参考:59醸