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『今宵にほんしゅ三昧』”越後鶴亀ワイン酵母仕込”と星野源と。

掲載

 

去年、わたしの同級生が亡くなりました。
北国の雪のように色白で、大らかな性格を現すように、

背が高くて大きな身体の割にのんびりとした女の子。
そして、いつも柔らかな笑顔を身につけた子でした。

 

別の友人から訃報を受けた時

わたしの頭の中には、梅酒のお湯割りをのむ彼女の姿。

そんな時までお酒のことを思うなんて、本当病気というか、性分というか…。

職場で倒れ、そのまま還らぬ人となったという初夏の突然の出来事に、

受け止めきれなくて、どうにか現実逃避をしていたのかもしれません。

 

 

あの子、お酒がさほど強くなくて甘党だったから、

わたしのどうでもいい記憶の中で彼女は、ゆっくり梅酒のお湯割りを飲んでいます。

思いだすのは、中目黒。
もう何年も会っていなかったのに、彼女が研修のため上京した時
突然会うことになって、お互いの近況と将来について語り合ったことです。

「日本酒の仕事か、かっこいいねぇ。」
そう言う彼女は、希望の人道支援の仕事についたというのに笑顔が曇っていて、

口から出る前向きな言葉と表情のアンバランスさが気に掛かり、

なにか足しになればと本を贈ったりしましたが、
次に会ったのは棺の中、昔のように朗らかに微笑む彼女。

その笑顔から曇りはすっかり失われていたから、
私たちでは計り知れない呪縛から解放されたのかもしれない、と
キョトンとしている彼女の愛娘を眺めながら、なんとか自分を納得させたのでした。

 

 

葬儀中いくつもの歌が流れ、

「歌が好きで、いつも音楽に囲まれてたっけなぁ」と誰が言うでもなく、

共感する場内はまるで映画のエンドロールのようだったのをよく覚えています。
その中でも特に、葬儀でかけるには歌詞があまりに印象的だった1曲

あとから調べると、星野源の「知らない」という曲だったから、
あれ以来わたしの記憶で彼女は、
梅酒のお湯割りを「知らない」を聞きながら呑み、顔を赤らめて微笑んでいるのでした。

 

  • 寂しいのは生きていても
    死んでいても
    同じことさ
  • 止まる 胸の音に
    高く高く響く 思い出がある
    さよならもまだ言えないで
    闇の中歩く 君がくれた終わり
  • その先に
    長く長くつづく 知らない景色
    さよならはまだ言わないで
    物語つづく 絶望のそばで
    温もりが消えるその時まで

 

越後鶴亀 ワイン酵母仕込み 純米吟醸

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  • 越後鶴亀 ワイン酵母仕込み 純米吟醸
  • 越後鶴亀株式会社(新潟県 新潟市)

 

「ねぇ、このお酒をどんなシチュエーションで呑みたいかな?」
わたしが持ちこんだ遊びに、夫が付き合って答えます。

 

「デートかな?洒落た場所で、女性にのんで欲しいな。」

「わたしは、ある女の子に自宅で話しながら勧めたいの」

 

 

女の子に飲んでもらいたいお酒、と一致した今回の1本。

 

ワイン酵母を使った甘酸っぱい日本酒。
夫は「単体でのみたい」といい、

わたしは「チーズなど洋食とあわせたい」と感じた力強い味わい。
白ワインよりも酸味がきつくないから、柔らかく甘く、唾液と溶け合う旨味の1本。

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わたしは、
「梅酒が好きだった彼女のためにロックか、加水してお燗にしても良いかもしれない。

ワイングラスに注いで。

あわせるなら、わざと洒落てチーズとかキッシュとかオリーブとか。
ブルーチーズだって面白いかもしれない。」
呑んでからずっと、そんなことを思い巡らせていました。

 

デザートワインや洋酒のようであるけど、このお酒は日本酒。
日本酒は分類上の名を、清酒。
清めの酒なら、いまは遠い場所にいる彼女に贈るのにも相応しいかもしれない。

 

こうやってサヨナラも言わないまま、寄り添って

彼女とわたしの物語は続いていきます。

 

 

友美

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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