酒と鮨の千一夜~第三夜・伊吹の赤貝と悦凱陣 興~
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若い頃、すきやばし次郎に憧れて、その写真集を購入したことがありました。写真集には店の構え、誂えから始まり、代表的な鮨種も写真で掲載されていました。ネタについては、その産地も書かれておりました。その頃は、まだバブルの名残の頃で個人的には大間の鮪や氷見の寒鰤などの大ネタに追われて、地元瀬戸内海の魚介には目もくれていませんでした。そんな私の目に止まったのが、赤貝と鳥貝の一番代表的な産地として、観音寺(香川県観音寺市)が上げられていました。それ以来、観音寺の赤貝と鳥貝は意識的に食するようになりました。今回は観音寺の中でも特に旬の赤貝が美味いと言われる伊吹島産の赤貝にスポットを当てます。走りの鳥貝もいただきましたが、また、旬を迎える春以降に書かせていただきたいと思います。今回合わせる日本酒は、さすがに香川観音寺の赤貝、鳥貝が揃えば、讃岐琴平の銘酒、悦凱陣しかないでしょう!と言うわけで、悦凱陣でも年末晦日に一般リリースされる「興」で正月の〆とまいります。
伊吹の赤貝
伊吹島は観音寺港(香川県観音寺市)から西約10kmの燧灘(ひうちなだ)のほぼ中央に位置する島。1890年(明治23年)の町村制実施により観音寺町に属しましたが、1949年(昭和24年)に分離して伊吹村となりました。その後、1956年(昭和31年)に再び観音寺市と合併し、現在に至っています。
その昔、「息吹島」と呼ばれていたという説と、「異木島」と呼ばれていたという説があります。
瀬戸内海の燧灘(ひうちなだ)のほぼ中央に浮かぶ伊吹島は、ハート型をした小さな島。カタクチイワシの水揚げ量が多く、このカタクチイワシを使ったいりこ(イリコ・煮干)の生産が盛んな「イリコの島」として知られています。それも普通のイリコではない。品質、味ともに日本一のイリコともいわれる、最高級、最上級のイリコなのです。このイリコは、讃岐うどんの出汁には欠かせない煮干しです。伊吹のイリコがあってこそ、あの讃岐の麺が活きるのです。
さて、赤貝、刺身として、また、握りのネタとして使う際、板前さんがよくまな板に叩きつけたりしていますが、あれは身を締めるためです。新鮮なタマの部分は、叩きつけると生きているように身が反り返ったりします。そうすることでより歯ごたえのあるコリコリした食感を楽しめるようになります。すし秀の大将も赤貝となると、昔のメンコのように、パシッ、パシッと勢いよく、まな板に叩きつけていました。
今回は、紐も握りでいただきました。
悦凱陣 純米吟醸 興 うすにごり生 30BY
悦凱陣 純米吟醸 興 うすにごり生は丸尾本店からその醸造年度の最初にリリースされる新酒の純米吟醸酒です。
もともとは搾り機由来の澱がからんでいた為、”うすにごり生”と表記されていますが、現在は濁っていることは基本的になく、澄酒となっています。
八反錦で造られたこのお酒は、新酒らしいフレッシュさは勿論あるものの、しっかりした米の甘み・旨みも充分に感じます。凱陣らしさを感じるお酒です。香りは穏やか。ほのかに爽やかさや、麹由来の甘やかなニュアンスも感じられます。
口当たりは瑞々しく、しっとり。少々シャープなタッチに、リッチなエキス感。
品の良さがありながらも、しっかりとした酸や密度感、さらには若干の荒々しさも感じる、ボリュームある味わいです。
新酒の状態飲んでも楽しめますが、熟成による旨みも期待できるお酒でもあります。
スペック
名称:悦凱陣 純米吟醸 興 うすにごり生(生原酒)
精米歩合:50%
酒米:広島県産八反錦100%(熊本9号酵母)
アルコール度:15%
日本酒度:+9
酸度:1・5
蔵元情報:有限会社 丸尾本店
おしまいのページで・・・
今回は香川県のお酒に鮨種と来ましたから、やっぱり「讃岐うどん」も一杯いかがでしょう(笑)
私の知る限り、もっとも伊吹のイリコが目立つ一杯。香川県善通寺市の名店、「宮川製麺所」のかけうどんでおしまいといたします。