酒と鮨の千一夜・第六夜 ~高知初鰹の土佐巻と南・無濾過純米中取り~
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平成三十一年四月十日、高知はりまや町「かもん亭」に六年ぶりに前々職昭和60年同期入社の三人が集まった。仲良し三人組が集まることが、大きな目的であるが、このかもん亭、料理は美味い上に、地元高知の日本酒の品ぞろえが抜群の店である。料理の一番のお目当ては、バッテラ。清水さばがメインである。時にはウルメイワシのバッテラもある。とは言え、この時季高知と言えば、「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」先ずは本日のおすすめは朝獲れ日戻りの初鰹のたたき。それを土佐巻にもしていただいた。普段、かつおも巻物もあまり食べない私であるが、こちらのお店は別格の極上に美味い。さて、日本酒。実は同期二人のうち一人が名前を「南」と言う。そうあの南酒造場が遠い本家であるそうだ。当然、ここは「南」をオーダーすることになる。
南
南酒造場は太平洋に面し、後ろには魚梁瀬(やなせ剣山系)美林。これは日本三大美林の一つです。
土佐漆喰と水切瓦という、土佐・安芸地方の美しい蔵を持つ酒蔵。
酒蔵の側を鮎おどる清流安田川。良質な水にも恵まれた、とても自然豊かで酒造りに適した所にあります。
南酒造場の代表銘柄は「玉の井」ですが、さらに力を入れているのがこの「南」シリーズです。
地元では 「玉の井」 の銘柄で親しまれ、東京向けに「南」のブランドを展開したのが最初と聞きます。
主に酒造好適米の松山三井を使用し、全量箱麹を使用。
酒米の旨みを生かした、まろやかな辛口で飲みあきしない日本酒に仕上がっています。
「南」は製造数量が非常に少ないので、季節限定酒などは即時蔵元完売となってしまいます。
全量60%以上精米の特定名称酒で 華やかでキレのある小規模製造。「南 無濾過純米中取り」は、爽やかな吟醸香と、旨みとキレ、辛さのバランスの良さから、喉ごし軽やかですいすいと口に運びたくなります。
スペック
使用米:松山三井
精米歩合:60%
日本酒度:+8
酸度:1.7
鰹
鰹は回遊魚の一種で、春になると九州南部~岩手県の三陸海岸沖まで餌を求めながら北上していきます。
その時に各地で取れる鰹のことを「初鰹」と呼んでいます。
特に3月頃高知で水揚げされるものを、一般的には「初鰹」と呼ぶことが多いようです。
各地区で水揚げされる初鰹の時期は
3月~4月頃 九州、四国沖
4月~6月頃 本州南岸沖
7月~9月頃 三陸海岸沖
春から夏にかけて北に向かって回遊するので、概ねこんな感じです。
日本の食文化は、季節を感じながら、季節の味をいただくことを大切にしているので、いち早く季節のものを味わうことは大きな喜びです。
かつおの旬は年に2度。春から初夏にかけ、黒潮にのって太平洋岸を北上するかつおが「初鰹」。秋の水温の低下に伴い、三陸あたりの海から関東以南へ南下してくるかつおが「戻り鰹」です。餌をたっぷり食べている「戻り鰹」は脂がのっているのに対し、「初鰹」はさっぱりしているのが特徴で、旬の走りの「初鰹」は今も昔も人気の初夏の味覚です。
初鰹
江戸っ子の粋の証
「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」とは、江戸中期の俳人・山口素堂(1642~1716)の作。目にも鮮やかな「青葉」、美しい鳴き声の「ほととぎす」、食べておいしい「初鰹」と、春から夏にかけ、江戸の人々が最も好んだものを俳句に詠んでいます。
旬の走りは珍しさが先行して値段も高めで、もう少し待てば盛りになり、味や値段も安定するのですが、それを待つのは野暮というもの。初物に手を出すのが粋の証だったのです。当時「初鰹」は、「まな板に 小判一枚 初鰹」(宝井其角/1661~1707)とうたわれるほど極めて高価でしたが、「初鰹は女房子供を質に置いてでも食え」といわれるほどの人気でした。
初物を食べると寿命がのびる!?
初鰹が支持されたもうひとつの理由が、初物の縁起の良さにありました。初物とは、実りの時期に初めて収穫された農作物や、シーズンを迎え初めて獲れた魚介類などのこと。初物には他の食べ物にはない生気がみなぎっており、食べれば新たな生命力を得られると考えられ、さまざまな言い伝えも残っています。
「初物七十五日」(初物を食べると寿命が75日のびる)
「初物は東を向いて笑いながら食べると福を呼ぶ」
「八十八夜に摘んだお茶(新茶)を飲むと無病息災で長生きできる」(新茶を贈る風習もあります)
初鰹も同様で、「初鰹を食べると長生きできる」とされ、大変珍重されました。江戸の初鰹は鎌倉あたりの漁場から供給されたため、松尾芭蕉(1644~1694)は「鎌倉を生きて出でけむ初鰹」と詠んでいます。
かつおのたたき
かつおのおいしい食べ方といえば「たたき」。別名「土佐造り」といわれるように、高知の名物料理でもあります。
新鮮なかつおを皮付きのままおろした節を、表面だけ火が通るように炙り、冷水でしめます。藁を使って炙ると香りがよくなります。
水気を切って1㎝ほどの厚さに切り、塩少々をふって、手または包丁の背などを使ってたたきます。大皿に盛って、上から薬味とタレをたっぷりかけて食べますが、薬味としてはしょうが、にんにく、大根おろし、ねぎ、あさつき。青じそなど。タレにはレモンやスダチなどの柑橘系の酸味を利かせたポン酢や醤油ダレがよく合います。
高知の初かつおの旬の時期は3月から4月になっています。かつおのたたきと言えばなんと言っても高知が有名です。実は意外ですが、かつおの漁獲量の都道府県ランキング(平成28年)では1位は静岡、2位東京、3位三重に次いで高知は4位となっています。なぜ高知のかつおが名物になっているのかというと、漁場が近く新鮮なかつおが食べられるからです。
高知では昔からの伝統的な「土佐の一本釣り」も有名です。沿岸でのかつおの一本釣りの漁獲量は高知が1位となっています。沿岸、つまり漁場が近いということは、冷凍する必要がないので生の新鮮なかつおをいただくことができるということです。1本ずつ釣るので、傷がなく鮮度のよいかつおを釣り上げることができます。また、一本釣りは群れを一網打尽にしないので、自然にもやさしい漁法です。
巻き寿司
巻き寿司(まきずし)は、寿司の1種で、江戸前寿司の基本的なものの1つであり、巻物(まきもの)、海苔巻き(のりまき)とも呼ばれる。一般的には、巻き簾上の海苔に酢飯を広げてその上に具(巻芯)を乗せて巻いた日本の料理を指す。巻き方は地方や店舗によって異なるが、断面が方形あるいは円形のものが多い。 寿司店以外でも、弁当屋などの店舗や家庭で作られることが多い寿司である。
海苔巻きずしに欠かせない海苔は昭和24年マンチェスター大学キャスリーン・メアリー・ドリュー=ベーカー教授が海苔の糸状体を発見し九州大学瀬川宗吉教授へ教示、熊本県水産試験場太田扶桑男技師へ伝えられ1953年人工採苗に成功。海苔は養殖により安定供給可能となり、1975~1984年には全国的に過剰生産時代へ入った。 主要な生産地は佐賀県・福岡県・兵庫県・熊本県である
土佐巻
「カツオのタタキを丸ごと巻き込む!」
高知名物の寿司の一つはカツオのタタキを巻き寿司にした「土佐巻」だ。今では高知市内の居酒屋に当たり前にあるメニューだが、元は創業60年の老舗寿司店の先代社長が40年ほど前に考案した。
「昔、市内の観光名所・はりまや橋の近くに店舗があったんですけど、そこを訪れる観光客のために、何か手軽に食べられるものを作ろうといって生まれたのがこれなんです」
作り方は、生ガツオを炙った香ばしいタタキを、自家製ダレにしっかり漬け込み、大葉やネギ、ニンニクなどの薬味と一緒に酢飯で巻き込む。カツオのゴロッと感を出すために、細巻きではなくあえて中巻きにするのもポイントだ。
観光客が手でつかんで気軽に食べるというのが最初のコンセプトながら、今は割烹、料理屋、寿司店ならではの本格的な仕上がりになっている。
食べてみると、確かな歯ごたえの厚いタタキはネタがいいので、カツオ独特の臭みをまったく感じさせない。また、さっぱりと仕上げられた漬けダレやシャリと一緒に、たくさんの薬味の風味が口の中に押し寄せ、全体的に軽く爽やかな印象だ。
おしまいのページで・・・
初鰹と戻り鰹、どちらがうまいか?世間の評判は圧倒的に脂の乗る戻り鰹と言うことになる。私は高知に本社をおく会社に28年勤め、高知市内でも四年暮らしたが、鰹は好きになれなかった。今回、土佐巻きの前に食べた、「初鰹のたたき」絶品であった。結局のところ今までうまい鰹を食べてなかったのだ。唯一、先輩が届けてくれた。土佐佐賀の日戻り鰹の藁焼きたたきのみが旨かった。
季節が桜から新緑な移り変わるころ、高知の初鰹は形が揃い美味くなってくる。それを日戻り、一流の料理人の包丁にかかれば、それはそれは、美味なる絶品となる。
戻り鰹は「旨い」初鰹は「美味い」そんな表現が私には一番しっくり来る。
最後に、四月十日のかもん亭の初鰹たたきの画像でおしまいのページといたします。
「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」