酒と鮨の千一夜 ~第二夜・瀬戸の鯛と黒龍石田屋~
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酒と鮨の千一夜、第二夜はお正月五日に高松「すし秀」にての瀬戸の真鯛と黒龍石田屋でお届けいたします。どちらも私的には、「魚の王様」「日本酒の王様」的な存在感の高い一品です。
黒龍石田屋
純米大吟醸酒を低温にて熟成させることでうまさとまろやかさが加わり、香りおだやかに仕上がりました。屋号「石田屋」と名付けられました。
私的に黒龍石田屋を飲めば思い起こすのは、黒龍の地元福井県の永平寺の冬。
福井県北部の山あいにある曹洞宗の大本山「永平寺」は、冬になると周囲を雪に包まれます。雪のない季節においても、豊かな自然に抱かれ粛々たる雰囲気の永平寺は、周囲を雪に包まれることにより、その凛とした佇まいをさらに清らかで厳粛なものにしています。そのピリッとしながらも、どこか心地よさも伴う空気はほかに比べるものがありません。そんな冬の雪の永平寺の風景を思い浮かべます。
香川県(讃岐)の真鯛
瀬戸の鯛と大きい見出しとなりました(笑)今回は、備讃瀬戸(岡山県と香川県の間の海域)の鯛を取り上げました。瀬戸内海の鯛と言えば、日本一、二を自他ともに認める「明石」「鳴門」「来島」とすぐにでてまいります。
明石は、本州と淡路島、鳴門は四国と淡路島、来島は四国とその沖の島々の狭い海峡を指します。備讃瀬戸は本州と四国も最も近い海域で多数の島々があり、全体に潮の流れも早く、広く良好な漁場が広がります。最近はあまり言われませんが、香川県坂出沖には金手漁場と言う良好な漁場が広がりそこで獲れる真鯛は、「金山鯛」と呼ばれ珍重されました。
桃色に青色の星をちりばめた鮮やかな体色。魚の王様といわれるタイは、桜の咲く頃、産卵のため瀬戸内海に入り込み、桜ダイと呼ばれます。
「鯛の浜焼き、鰆の刺身」といわれ讃岐の味の代表とされるとともに、タイ漁は、かつて本県漁業の中心、花形でした。入り込みタイを狙って、漁船10隻、漁夫70人を要する大掛かりなタイ網漁から数人乗りの小船の一本釣まで、様々な漁法でとられていました。坂出市沖の金手(かなで)が最も有名な漁場で、竜宮の金をうろこに付けて金色にかがやく姿から、金山(かなやま)鯛といわれました。
近年は漁獲が減少していましたが、秋口のタイ子を漁獲禁止とするなどの資源保護の効果が実ったのか、最近はかなり増加しています。県内の民間会社でも種苗生産が行われ、養殖も盛んで、値段もぐっと手ごろになっています。
コシッとしていて淡白な味の刺身、身がしまっていて噛みごたえのある塩焼きや、煮付け、うしお汁などにしますが、鯛飯、鯛そうめん、さつまなど郷土料理も豊富です。製塩が盛んであった頃は、塩とともに蒸し焼きにした「浜焼き」が讃岐の特産品で、今も伝統的な味が引き継がれています。
さて、本日の備讃瀬戸の真鯛はお鮨に向くように「すし秀」大将渡邉氏により、丁度良い具合に寝かされております。本来この時季の真鯛のお刺身は身が締まりコリコリですが、渡邉氏により鮨種に合うように優しく甘さを柔らかく香り立たせています。
おしまいのページで・・・
最後に黒龍石田屋を私得意の「ジャケ買いのすすめ」的に私のシビれる部分を紐解けば、そのボトルの深いブルー。
その青さは東山魁夷の「東山ブルー」に通ずる青のような気がします。東山魁夷が京都の大晦日の青い雪景色を描いた「年暮る」に添えた言葉を、おしまいのページで記しておきます。
それは私的には、黒龍石田屋に対する気持ち。
「去りゆく年に対する心残りと、来たる年に対するささやかな期待」年末年始に黒龍石田屋を一人しみじみと口に含めば東山魁夷のその言葉が脳裏を駆け巡ります。黒龍石田屋はそんな一本です。