イギリス人杜氏ハーパー氏が醸す木下酒造「玉川」
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英語教師として来日したハーパーさんは、日本酒に出会って惚れ込み、酒造りの世界に飛び込んで以来、およそ二十五年もの間、第一線で活躍。2007年に京都府の木下酒造杜氏に就任してからは売り上げを伸ばし、全国新酒鑑評会でも金賞を受賞するほど美味しい日本酒を生み出しています。
「地酒の粋」を掲げて地元に根づく伝統を大事にしながらも、革新的なお酒を造り出しているハーパーさんにインタビューさせてもらいました。
– ハーパーさんは日本酒に惚れ込んで、酒造りの世界に入ったと聞きました。日本酒はハーパーさんが飲んできたお酒と比べてあまりにも違うと思いますが、戸惑ったことや大変だったことはなんでしたか?
A:造り手側になったのは日本酒が初めてだったため、他の酒類と比べることはできません。合わせる料理や温度による味の変化は、日本酒の最大の魅力だと昔も今も感じています。
– 木下酒造は何期醸造ですか? 現在は何人でお酒を造っていますか?
A:精米担当、杜氏を含め、10名。ほとんどが季節雇用のため、10月から4月までの製造です。
– 玉川のお酒は特別純米、コウノトリ生酛のような古酒もあれば、しぼりたて生原酒もあります。これだけ大きく違うお酒を醸していますが、ハーパーさんはお酒造りにおいて、どんな方向性を目指していますか?
A:さまざまな酒質の商品があることが、玉川の特徴と言えると思います。日本酒の幅広いポテンシャルを引き出すため、旨みを軸と考えて造っています。また、熟成にも力を入れています。
– 玉川の生原酒はフレッシュでしたが、ほかは全体的に落ち着いた深い味わいを感じました。熱燗にしても美味しかったですし、幅広い料理に合うと感じております。どんな料理との組み合わせ、あるいは温度帯で飲むのが良いですか?
A:料理との相性、温度帯も幅広く遊べるのが玉川なので、季節やその時の気分しだいで、悩まず気楽に決めていいと思います。
– 個人的には「玉川 特別純米酒」が好きです。こちらのお酒についてご紹介をお願いします。
A:とにかく熱い燗がおすすめ。一般的な書物には55℃が「飛び切り燗」と書かれていますが、我々(木下酒造の蔵人)はこの酒をそんな低い温度で飲みません。ぬる燗では味が硬いが、しっかり熱くすると味が柔らかくなります。燗冷ましもおすすめです。他の玉川商品も同様です。
– 若者の日本酒離れがよく言われますが、ハーパーさんは今の日本酒をどのように感じ、考えていますか? また、どうすれば若い人にも美味しさが伝えられるのでしょうか?
A:偏ったうんちくと固定観念が邪魔している部分があり、「日本酒は難しい」というイメージを持たれています。消費者の皆さんが色々な銘柄を色々なシチュエーション、色々な温度帯で、色々な料理に合わせて飲み、自分自身が「美味しい」と感じた部分を楽しみ、広げていってほしい。そうすれば日本酒は「難しい」ものではなく、楽しい飲み物だとわかっていただけると思います。
以上がインタビューでした。個人的には、「玉川」の旨味はお酒好きが辿り着く一つのゴールだと感じています。日本酒初心者の入り口は、恐らくフルーティーな香りで甘くて後味スッキリなお酒でしょう。そこからお酒のより濃い味わいを求めて進めば、深く旨味を味わえるお酒に辿り着きます。その時きっと、ハーパーさんの「玉川」に出会っていると思うのです。
木下酒造有限会社 天保13年(1842年)
〒629-3442 京都府京丹後市久美浜町甲山1512
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