日本酒発祥の地と言われる島根県に見る日本酒×ITの可能性
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春がすぐそこまできている3月15日夜、会場に着いた筆者が2階に上がると、20人ほどの男女がお酒とおつまみを味わいながら立ち話に花を咲かせる姿が飛び込んできました。テーブルを見れば「島根県でIT転職」と書かれたチラシ、『さんいんキラリ別冊 神々を魅了した島根の酒』というタイトルの雑誌、島根県の日本酒「十旭日」(旭日酒造)が置かれています。
「僕は島根県で日本酒を覚えました」という知人に紹介されて、筆者がやってきたのはリトルトーキョー(東京都・清澄白河)で開催された「熱燗IoTナイト」。島根県による「都市部で働くITエンジニアを対象にUIターン転職支援プロジェクト」(IT WORKS@島根)の一環で、島根県にIターンしたエンジニアをゲストに迎えて「島根県のおいしい日本酒を飲みながら、島根県のIT事情と暮らしを聞こう」というイベントでした。
ITエンジニアのUターン(出身地に戻って就職)とIターン(出身地以外の場所で就職)支援に力を入れている島根県。開催の経緯を島根県東京事務所産業振興部の土江健二さんに聞くと、「これまでも都心部に住むITエンジニアに向けたセミナー兼交流会を開催してきました。そこでお出しした島根県の日本酒が好評でしたので、一度、島根県の日本酒を飲みながら島根県を語る会をやりたいと思って今回初めて開きました」と答えが返ってきました。
同日のイベントでは用意された日本酒とおつまみ
島根県は世界で使われているプログラミング言語「Ruby」の開発者であるまつもとゆきひろさん(松江市在住)とともに、行政・IT企業・教育期間が連携して「Ruby」普及活動に取り組んでいますが、実は“日本酒発祥の地”としても知られています。
“日本酒発祥の地”と言われる島根県
日本酒誕生の歴史は約2000年前の弥生時代「口噛みの酒」にまで遡りますが、島根県酒造組合によると“日本酒発祥の地”と言われる根拠は二つ。まず、日本最古の歴史書『古事記』の出雲神話に出てくるスサノオノミコトがヤマタノオロチを倒した時に使った「ヤシオリノ酒」です。
さらに、奈良時代に地方の歴史や文物を編纂した風土記の一つ『出雲風土記』でも佐香神社(島根県出雲市)で神に捧げる酒を造って宴を開いたと書かれており、現代でも特別に酒造免許を受けた宮司がその年の濁り酒を造って奉納する行事が伝わっていることです。島根県酒造組合はこの二つを根拠に「日本酒発祥の地としてPRしていきたい」と語りました。
「日本酒造りに欠かせない水とお米と杜氏の技術が揃っているのが、島根県の日本酒のおいしさの所以です。そして、島根県の日本酒はバリエーションも豊富です」。島根県には中国山地があり、降り注いだ雨が風化した花崗岩(かこうがん)を通り抜けるうちにミネラルを含んで酒造りに適した水になります。
お米も「佐香錦」や「神の舞」といった県が開発した酒米の品質が良く、それぞれの蔵の個性と結びつくことで淡麗から濃醇のものまで味の幅広さを見せてくれます。さらに、100年以上続く出雲杜氏や石見杜氏という日本酒造りの職人軍団がいることも大きいです。
日本酒の愛飲者を増やしたい島根県酒造組合
画像提供:島根県東京事務所産業振興部
国税庁によると、全国で見た日本酒消費量ランキングで島根県は8位。しかし、西日本で見れば日本酒の生産量で上回る広島県や高知県を抑えて1位です。島根県酒造組合は日本酒を愛飲する人が多いことを活かし、「個々の蔵元だけでなくオール島根として県と連携しながら、県内だけでなく海外にも島根の日本酒を愛飲する人を増やせるよう取り組んで行きたい」と語っています。
そんな島根県では、移住したITエンジニアが中心となって島根県の日本酒業界を盛り上げる取り組みをいくつか行っています。2014年8月に設立された「日本酒応援団」による、全国から若者を集めて竹下登元首相の実家の酒蔵「竹下本店」での日本酒造り、さらに2017年9月には地元の蔵元や飲食店と協力して日本酒飲み歩きイベント「松江トランキーロ2017」を開催し、開発した日本酒投票アプリも使われました。今後の日本酒×ITの広がりに期待が寄せられます。
<島根県酒造組合>
<島根県のIT情報サイト IT WORKS@島根>