全国新酒鑑評会14年連続金賞受賞 京都限定の酒米で醸す「英勲」齊藤酒造が目指す前人未到の領域
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13代目の齊藤洸(さいとう・ひろし)さん
京都の伏見に「英勲」という日本酒を醸す齊藤酒造があります。毎年行われる新酒のコンクール「全国新酒鑑評会」で14年連続金賞受賞という未だ破られない記録を打ち立て、京都でしか生産できず、京都の酒蔵でしか使用できない「祝」(以下、祝米)での酒造りに注力する蔵元です。
伏見で商いを続けてきた齊藤酒造は、明治初期までは呉服商でした。江戸時代の伏見は、「巨椋池(おぐらいけ)」という当時の日本で2番目に大きい湖があり、京都・大阪・江戸を繋ぐ川船の発着する港町であったため多くの人が訪れ、齊藤家はお土産としての呉服販売をメインに栄えていました。
しかし、明治時代に鉄道ができたことで人の流れが水路から陸路に変わり、伏見を訪れる人が減少し齊藤家も経営が苦しくなります。祖父と父を亡くし、若くして当主を継いだ9代目齊藤宗太郎さんは転業を決意し、1895年に若干18歳で「柳正宗」「大鷹」の商標で日本酒の販売を始めたと伝えられています。
齊藤酒造の外観
「英勲」に商標変更したのは10代目になってからで、1915年の大正天皇の御即位を記念して、9代目の戒名の1字から取って決めたそうです。現在まで続く齊藤酒造の13代目であり、取締役を務める齊籐洸(さいとう・ひろし)さんに「祝米で造る英勲はどんなお酒なのか」を聞きました。
京都の特産である「祝米」で造ることがお酒の個性になる
ーー祝米をメインに使った酒造りをしていると聞きましたが?
齊藤 1992年から京都でしか生産できず、京都の酒蔵でしか使用できない祝米で造ったお酒を販売しています。「祝米」は1900年代中頃の京都府の奨励品種でしたが、稲穂の粒が重く背が高いから倒れやすいため、栽培しづらくて一度生産中止になったんです。ところが平成に入ってから再び京都府の奨励品種になり、うちの蔵で試験醸造してほしいとお米が持ち込まれました。
2年間ほど試行錯誤しましたが、あんなに酒が造りづらい酒米はありません(笑)。モチモチしているので玉になりやすく、バラけにくいからお米が溶けづらいので味にムラが出やすい。けれど、上手にコントロールしてあげると独特の良い味わいが出てくる。これは使いようだなと。メインの酒米として酒造りをしていくことを社長(父)が決断しました。
「京都でしか生産できず、京都の酒蔵でしか使えない」ことが決め手だったそうです。酒米と言えば酒米の王者「山田錦」がまずあがりますが、優秀であるがゆえに多くの蔵元さんが使っています。蔵の個性を出すならば、他とは違う原料を使っていく必要があります。京都では観光資源が豊富で、伏見稲荷大社のように外国人観光客に人気のスポットも多い。京都というだけである意味ブランドですから、祝米以外の酒米も京都産を使っています。
伏見稲荷大社
1992年年度に、日本酒業界で初めて祝米を100%使ったお酒「井筒屋伊兵衛」を販売しました。その後に造られた「古都千年」と合わせて、祝米を使ったお酒の製造販売は続いています。うちの蔵では祝米の全生産量の40%以上を使っていて、低価格帯から高価格帯まで祝米で造ったお酒が揃っています。
ーー祝米で造るとどんな味わいのお酒になるのですか?
齊藤 うちの蔵は「淡麗優雅」を理想に掲げていて、サラッとした口当たりの良い食中酒が多いです。「1杯目を飲んで特徴が大きくて美味いけど、2杯目は飲まなくなるお酒」ではなく、「大きな特徴はないけれど、気がついたら1本空いているようなお酒」が目指している酒質です。
ところが祝米の特性通りに造ると、ゴツンとした雑味の出やすいお酒になるんです。祝米が持つ甘みや旨味が雑味に変わらないタイミングで発酵を止めるのが、うちの祝米の味の引き出し方です。神経を使う難しい造りですが、長年祝米を多く使ってきた経験から安定したクオリティーを保つことができます。
祝米を使った純米酒で金賞を取りたい
ーー現在は純米酒しか「全国新酒鑑評会」に出品しないと聞きましたが?
齊藤 うちは1998年〜2011年まで14年連続「全国新酒鑑評会」で金賞を受賞してきました。その内の最初の10年は山田錦を使ったお酒でしたが、11年目からは祝米を使ったお酒に切り替えました。祝米のお酒で4年連続金賞を受賞したのもうちの蔵だけですが、5年連続は逃したので、目標を「醸造アルコールを使わない祝米だけのお酒で金賞を取る」ことに変えました。
「全国新酒鑑評会」には毎年約900点の日本酒が出品されますが、ほとんどの蔵元さんが醸造アルコールを使っています。香りが出やすくなるだけでなく、出品したお酒は予選から本選まで長期間置かれるため、醸造アルコールを添加することで味の変化を穏やかする目的もあります。なので、純米酒で金賞を取る蔵はごくわずかしかありません。しかし、今のお客様は全体的に「純米酒」を好む傾向にありますから、うちの蔵では全ての純米大吟醸に醸造アルコールを使わないことに決めたんです。
また、「全国新酒鑑評会」の出品酒は、市販酒とは別に少量で丁寧に造るのが一般的です。金賞を取ったからと言って、その蔵のお酒全てが金賞と同じ水準の造りではありません。コンクールは技術を競う場でもあるので良いと思いますが、そこでも水準を高めた市販酒で金賞を取りたいと思ったので、市販酒の中から自信のあるものを出品するように変えました。今のところ、祝米で造った市販酒では2016年に1回入賞しただけ。すごく難しい挑戦ですけど止める気はないですね。
実は「一吟 純米大吟醸」という山田錦で造った市販酒で、海外の有名なコンクールである「インターナショナルワインチャレンジ2017『SAKE部門』」で金賞受賞と「インターナショナル・サケ・チャレンジ2017『純米大吟醸部門』」でトロフィーを受賞しております。ひょっとしたら山田錦を使えば、純米の市販酒でも全国新酒鑑評会で金賞を取る確率が上がるかも知れませんね(笑)。
海外輸出でも京都の酒であることは強み
ーー海外展開においても、京都のお酒であることは強みでしょうか?
齊藤 やはり京都の酒蔵であることは強みでしょうね。とくに日本酒人気が高まっている香港や台湾といった同じ漢字圏では顕著ですね。世界でもトップレベルの人口密度の香港では、お酒に関税がかからず日本の売価の1.7倍くらいで買えるのも後押しして日本酒の人気が高い。関税が高い台湾もこれまでは普通酒が主流でしたが、近年は特定名称酒の売上が伸びています。
私も海外出張の度に、「日本と聞いたら京都が浮かぶ?」「京都に行ってみたい?」と聞いて回るのですが、京都に対して良いイメージを持ってくれる方が多いです。香港や台湾の日本酒バイヤーが言うには、京都を前面に押し出した商品や、京都の特産で造られた商品の人気が高いらしく、うちの祝米の「祝」も良い意味ですし、「古都千年」イコール京都と連想してくれるので売りやすいと言ってくれます。海外輸出だけでなく観光客にお土産として買ってもらうことを考えれば、京都をもっとアピールしていかないとと思うぐらいです。
祝米で醸した「英勲シリーズ」の中でもおすすめの日本酒「古都千年」
最後に、齊藤酒造の定番商品とも言える、祝米を100%使った「古都千年」を紹介します。純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸と精米歩合が違う3タイプを用意。食中酒として造られているため、幅広い料理に合うことが特徴です。
古都千年純米酒1.8L
純米酒は、やわらかくふくらみのある旨味とコク、辛さとのバランスが絶妙です。
古都千年 純米吟醸 1.8L
純米吟醸は、キリッとした口当たりを重視したキレの良さとほどよい辛さを引き立てた味わい。
古都千年 純米大吟醸 1.8L
純米大吟醸は、深みのあるまろやかで上品な味わいに大吟醸の香りが絶妙に溶け合っています。
<齊籐酒造>