「日本酒の価値を伝えることが役目」地酒の概念を全国に広めた「日本名門酒会」の4つの功績
掲載
日本酒を買いに酒屋に行けば全国各地の「本醸造」「純米酒」「吟醸酒」などの地酒が置かれており、春にはしぼりたて、夏は生酒、秋はひやおろし、冬は寒おろしと季節ごとに棚のお酒が入れ替わる。今では当たり前の光景ですが、日本酒離れが始まったとされる1975年ごろは違いました。
味ではなく税金の違いでお酒のランクを決める等級制度(1992年撤廃)の時代。今みたいに「純米酒」や「吟醸酒」といった味を追究する製法の意識が高くはなかったため、酒屋の棚には醸造アルコールや糖類で三倍に増量したお酒(三倍酒)が多く並んでいたと伝えられています。
「日本名門酒会」企画部副部長の田村哲夫さん
「一方で危機感を抱いた地方の酒蔵は、三倍酒主流の時代にあえて本醸造や純米酒など酒質の良い日本酒を造って売り出していました。良い酒の価値を広めていく新たな流通をするために日本名門酒会は生まれました」と「日本名門酒会」企画部副部長の田村哲夫さんは言います。地方で造られた酒質の良いお酒(地酒)を消費者に届けるために同会は設立されたそうです。
酒販店の棚に並ぶ日本酒を大きく変えるきっかけを作ったとも言われる日本名門酒会は、1975年2月に酒蔵(蔵元)と酒販店の間に立つ株式会社岡永によって発足。現在は120の蔵元と1700あまりの酒販店が加盟しています。発足45年目を迎えた同会の4つの功績を紹介します。
地酒を日本中に広めた試飲会
「日本名門酒会」主催の試飲会の様子
あくまで中間流通という立場の日本名門酒会。酒蔵のように酒を造ることも、酒販店のようにお客に酒を販売することもない代わりに、商品が売れるための企画や仕組み作りが役目だと心得ています。発足から最初に取り組んだことが、一般消費者に地酒の良さを実際に体験してもらうための試飲会でした。
しかし、「当時は試飲が一般的でなかったこともあり、店頭で開催してチラシを配りながら呼び込みをしてもほとんど立ち寄ってもらえず、毎回、捨てられたチラシを拾って帰ったと聞いています」と田村さん。それでも体験してもらう以上に伝える方法はないと信じて、積極的に試飲会を開催したそうです。
「酒屋さんに上手く足を運んでもらいたい。良い酒を飲んでもらいたい」思いで一般消費者向けに始めた試飲会は、現在では規模が拡大。酒販店で行うものから、ホテルなどを借りて蔵元を50社近く呼ぶ「日本酒天国」のような大きなイベントまであり、毎回多くの方が来場するようになりました。
酒質向上のための勉強会
戦時中の米不足が原因で三倍酒が生まれた日本酒業界でしたが、地酒の概念が広がったことと2006年の酒税法改正で事実上、三倍酒が造れなくなって全体の酒質が向上しました。現在、日本酒名門酒会では常に品質を高め続ける一助になればと、流通している商品の品質チェックをする品質管理委員会を開いています。同会の部長を始め、元国税局鑑定官、蔵元や酒販店の代表者約20名がブラインドテイスティングをした結果は各蔵元に報告されます。
さらに、蔵元が他の酒蔵を見学して造り方を見て学べる「蔵元見学会」も1976年から開催。2003年からは毎年7月に日本名門酒会に加盟している蔵元同士による技術交流会も開催しており、学びのために同会に所属していない蔵元を講師に呼ぶこともあるそうです。
季節ごとの日本酒購入を浸透させた
今では当たり前になった季節酒ですが、ある酒屋によると、「浸透してきたのは20年前くらいからでしょうか。それまでも季節酒と名乗ることはありましたが、年間の定番商品に夏酒シールを貼っただけみたいなのが多かった」とのこと。そんな現場を改革するため、1999年より一年間の季節やイベントに応じた販売シートを提案しました。
田村さんによると、「徐々に過去の文献を掘り起こして、例えば、熟成させて秋に飲む『ひやおろし』はこういう造りだったと蔵元さんに伝えることはしていました。その集大成として酒蔵と酒販店の双方に向けた、季節ごとのお酒を造って販売する年間スケジュールを作りました」
それまでも季節酒を造る酒蔵はありましたが、全国的な周知という点では課題がありました。販売シートによって、酒蔵と酒販店の認識が変わり、季節酒を造る酒蔵も増えていったと言います。「ただし、1983年に始まったしぼりたての日本酒が浸透するまでにも20年近くかかっているので、全体的にはものすごく時間がかかっていると思います」
立春朝搾り
日本名門酒会を象徴するとも言われる「立春朝搾り」は、日本の旧暦で「正月」にあたる立春の日の祝い酒。毎年2月4日の朝に絞りあがった日本酒の出荷手伝いに近隣の加盟している酒販店が駆けつけ、神社の神主にお祓いをしてもらってから持ち帰り、お客はその日のうちに買うことができます。1998年は「開華」(栃木県・第一酒造株式会社)1蔵からのみでしたが、2018年は43蔵も参加する立春の日のイベントとして浸透しています。2018年は1日でおよそ31万本も売れました。
「冬場はちょうど新酒が出る時期なので、新酒を買ってもらうのにうってつけの日はないかと探した結果、立春がふさわしいとなりました」と田村さん。立春の日に合わせて一番美味しい状態に持って行くため、最高ランクの「大吟醸」よりも造るのが難しいと言う杜氏もいるほど。絞りたての牛乳のようなフレッシュな日本酒が味わえるとあって年々、周知が広がっています。
日頃、蔵元と会わない酒販店もいるため、交流の機会になると喜ばれています。田村さんは「最初はリピーターが多いと思ったんですが、毎年4割が初めて買うお客様です。地域限定酒でありますし、予約受注してもらえるので毎年販促に趣向を凝らす酒販店が多くいます」と語ります。
以上が日本名門酒会の功績ですが、最後に注目すべき点は1984年の米国輸出から始まり、現在は海外33ヵ国に増えた日本酒の輸出。農林水産省によると、国内の日本酒の売り上げが下がる中で、日本酒の海外輸出は増えていますが、独力で行える蔵元が限られている中、希望する蔵元の商品を海外に届けられることは強みだと言えます。立ち上げから40年以上が経つ日本名門酒会の今後の展開に期待です。