これが普通酒!? これまでの“常識”を覆す日本酒「萬寿鏡」 社長「ずっと悔しい思いをしてきた」
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新潟県加茂市の蔵元・株式会社マスカガミが醸す「萬寿鏡(ますかがみ)」は、新潟産のお米を使った淡麗で旨味のある日本酒。2015年に発売された新銘柄「アルファベットライン」の「F」が付けられた普通酒が、“一番下のランク”だとは思えないほど美味しいです。
日本酒の7割は普通酒
酒類業組合法によって特定名称酒と普通酒の2つに分類される日本酒。特定名称酒とは原料や製造方法などの違いによって、純米大吟醸酒・大吟醸酒・純米吟醸酒・吟醸酒・特別純米酒・純米酒・特別本醸造酒・本醸造酒の8種類に分類された日本酒のこと。
白米の総重量に対し米麹を15%以上使っていること、醸造アルコール添加が白米総重量の10%以下であることが規定に定められています。この規定から外れた日本酒は全て普通酒と呼ばれ、特定名称酒を名乗れません。現在の日本酒の約7割近くを占めています。
主にサトウキビから製造される食用の醸造アルコール。現在の日本酒造りでは味や香りの調整に欠かせないのですが、実は「悪酔いする」イメージを持つ人もいます。第二次世界大戦中に米不足になったため、日本酒は醸造アルコールと糖類を大量に入れて増量することが認められ、以後、いわゆる三倍増醸清酒(同じ量のお米で3倍の酒になる)が出回ったからです。
ですが2006年の法改正により、かつて白米総重量の100%まで醸造アルコールを添加できたのが、普通酒は50%以下、特定名称酒は10%以下に制限されました。特定名称酒に関しては増量を目的にしていませんし、普通酒も大幅な制限によって酒質が大きく向上しました。
しっかりお米を磨いて造った普通酒は悪酔いしない
「戦中戦後の普通酒(三倍増醸清酒)の悪酔いは、お米の精米歩合(お米の磨き)が悪かったことや、三倍増醸に使われていた糖類に起因する雑味成分が原因と考えられます。糖類無添加で、かつ精米歩合の良い普通酒は、悪酔いしにくいと考えています」と株式会社マスカガミ社長の中野壽夫(なかのひさお)さんは言います。現在の醸造アルコールは、焼酎甲類に属するアルコールのため、「醸造アルコール=悪酔い」というのは、少しぬれぎぬだと考えているそうです。
醸造アルコールの有利な点は、できあがった時の日本酒の香りです。酵母の香りは醸造アルコールに吸着されやすいため、理論的には、醸造アルコールをより多く加えた方が、酵母の香りが酒中に残りやすい傾向にあると考えることができます。
「悪酔いも頭痛も、どんなお酒であれ飲みすぎが原因かと。特に現代の精米歩合の良い普通酒は、ついつい飲み過ぎてしまうきらいがありますから」と中野さん。「でも、経験上、少なくとも60%まで磨いた弊社の普通酒は、精米歩合の悪いお酒に比べ二日酔いのぬけは良いと思います
それでは、中野さんがおすすめする「萬寿鏡」の普通酒をご紹介します。
食卓に一番並ぶ普通酒だからこそトップクラスの味にしたい
「萬寿鏡」のアルファベットラインとして製造された「萬寿鏡F60(エフロクマル)」「萬寿鏡F40(エフヨンマル)」。F は普通酒の意味で、60、40ともに協会1801号酵母など、吟醸酒造りに広く使われる香り豊かな酵母を使い、より風味を残すため、生酒で貯蔵して瓶詰め時の1回のみの火入れです。
F40は年末の数量限定商品で、「普通じゃない普通酒」をキャッチコピーに、普通酒としては異例とも言える大吟醸クラスの40%まで精米。日本酒全体の7割と「食卓に並ぶ機会が一番多い普通酒だからこそ、トップレベルの酒質にしたい。普通酒でも精米歩合が良ければ美味しくなることをお伝えしたい」という思いで造られています。
今年で製造3年目を迎えるF60とF40は発売後数ヶ月で完売する人気商品です。そんな人気のFシリーズですが、始まりとなるF40は予定外の商品でした。
お米を磨くことでこんなにもお酒の味が変わる
「弊社が大吟醸造りで使う越淡麗は、自家栽培のほか、数軒の地元の農家さんに契約栽培をお願いしているのですが、2014年の秋の収穫の時期、そのうちの1軒から乾燥不足による水分過多で等級検査を通らなかったと相談を受けたことがきっかけでした」と中野さん。
等級検査に通らない規格外米を使ったお酒は、ラベルに特定名称を表記できないのですが、普通酒に使うのであれば水分過多はそれほど深刻な問題ではないことと、これまでの付き合いもあって買い取ることにしたそうです。そして、あえて大吟醸と同じ40%まで磨くことを思いつきます。
「私は日本酒の味はお米をどれだけ磨いたかで決まると思っています」と、中野さんは、これまでも精米歩合でお酒の味が大きく変わることをお客様に伝えてきたのですが、特に普通酒では、それを表現しきれなくて悔しい思いをしてきました。
半年間かけて名前とラベルデザインを決めたF40は、2015年11月に発売され、約5000リットル(720ml換算で約7000本)の限定醸造ではあったものの、最初の受注を取ったわずか3ヶ月で完売。1回きりの試験醸造のつもりでしたが、定番商品としてシリーズ化することを決めます。そこで、甘口のF40に対して、中辛口のF60を2016年3月に販売したところ、約12000リットルを、こちらも半年で完売しました。
ブランディングでイメージが変わった「萬寿鏡」
製造2年目からは、規格外米ではなく「越淡麗」をはじめ、全て等級米を使って醸すようになったFシリーズ。2017年6月には大辛口のF50を発売しました。「F40も50、60もお燗にせず常温か冷やして飲んで欲しいです。精米歩合に裏打ちされたやわらかい味わいで飲み飽きしないと思います。60%まで磨くとこうなるんだ! 40%まで磨くとこうなるんだ! と違いを楽しんでいただければ」(中野さん)
現在は、Fシリーズのほかに、純米酒を意味するJシリーズで純米吟醸の「J55 Yamahai」「J55 Sokujō」や早春のしぼりたて純米大吟醸生原酒の「J50G HARU」(Gは原酒の意味)、2017年11月に新しく出た贈答用の大吟醸酒「S30(エスサンマル)
(Sは至高を意味するSupremeの頭文字)などラインナップが増加。
F40は赤、F60はゴールド、F50はシルバー、J55シリーズは緑、J50Gはピンク、S30は青とイメージカラーで区分けされていて、見た目にも分かりやすいです。いずれも発売して数ヶ月で完売する人気ぶりで、味もさることながら新しいブランディングで商品のイメージをしっかり伝えられたことも大きいのではないでしょうか。ぜひ呑み比べて違いを堪能したいですね。
<株式会社マスカガミ>
〒959-1355 新潟県加茂市若宮町1丁目1−32