7号酵母の可能性を追求したい!「MIYASAKA」宮坂醸造をプロデュースした宮坂勝彦が語るリブランドの経緯
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信州諏訪の地(長野県)で創業1662年より続く宮坂醸造は、諏訪大社の宝物「真澄の鏡」を酒名に戴く酒蔵。「真澄」は全国新酒鑑評会で何度も金賞受賞する銘酒として、長年人々に愛されてきました。
「真澄」が宮坂醸造を代表するブランドであることに疑いはありません。一方で、2016年に新生「MIYASAKA」シリーズが誕生。それは1946年に発見された協会7号酵母誕生の蔵というルーツに立ち返ったリブランドでした。
近年はトレンドの熊本酵母(協会9号酵母)を始めとした、協会7号酵母以外の酵母も使った酒造りをしてきた宮坂醸造。しかし、日本酒業界全体の不況を見据えた時に「ルーツに立ち返るべき」だと決めたのは、当主の宮坂直孝さんの息子である宮坂勝彦さんです。「MIYASAKA」リブランドまでの経緯、そこに込められた想いを訊きました。
リブランドするまでの経緯
宮坂勝彦さん
大学を卒業後、伊勢丹新宿店で2年間勤務。婦人服売り場と食品売り場の販売員として、それぞれ1年ずつ勤めていました。とくに婦人服売り場において、「大きい意味での流行はあるものの、ブランドごとの哲学に沿った商品造りをしている」「ブランドの哲学に共鳴したお客様がファンになる」ことを強く感じた、といいます。
翻って日本酒業界を見てみると、地元の酒米を使った酒造りをする蔵が増えている傾向にあったものの、全国新酒鑑評会で金賞を受賞するため均一化したモノづくりが主流を占めていました。
「本来のブランドとは哲学を商品に落とし込んでこそ成り立つし、お客様にも認知されると思った時に、日本酒のトレンド重視の商品造りは少し違うのではないかと思ったんです」(宮坂勝彦)。
伊勢丹での修行を終え、2011年の冬に宮坂醸造で酒造りの経験を経たのち、翌年から1年間、イギリスで現地レストランなどに日本酒を卸す会社に勤めました。「黒龍」「手取川」「出羽桜」「玉川」などの銘酒の特徴や違いを、ソムリエやコックに説明するのが役割でした。それぞれの酒の背景、料理との相性をできるだけ分かりやすく伝える中で、宮坂醸造の個性とはなんだろうか?と改めて考えるようになったと言います。そうした経験の中で出た答えが協会7号酵母だったのです。
「MIYASAKA」誕生
「7号酵母以降の吟醸系の香りを出す酵母と比べると地味ではあるものの、料理に合わせやすく、日々飲み飽きしないお酒の造りに向いている。これこそが宮坂醸造の持つ最大の武器であり、語るべきストーリーだと思ったんです」(宮坂勝彦)。
しかし2013年に日本に帰国して宮坂醸造に正式に戻った際に、商品のラインナップを見て違和感を感じました。トレンドを追いかけた香りが高いお酒が多く、協会7号酵母を使ったお酒がそこまで多くはなかったのです。
「戻って来た当時、みやさか(リブランド前の当て字)のリブランドを父に任されたんです」と勝彦さん。「みやさか」というブランドは2005年頃からあったものの、「真澄」と大きな違いはなく、あくまでも流通を分ける手段として造られたお酒でした。そこで「蔵全体を協会7号酵母中心とした酒造りにするのは時間がかかると思っていたので、まずは『みやさか』で協会7号酵母の良さを追求しようと思ったんです」と動き出します。
「(7号酵母を昔ながらのまま使うのではなく)発想と挑戦する気持ちをもって取り組む」「7号酵母の可能性を追求」をメインコンセプトに決め、お酒の味のイメージを杜氏と相談しながら、ボトルデザインやラベルまで一新したのが現在の「MIYASAKA」です。その中から生まれるヒントが「真澄」の商品ラインナップを変えることに繋がるという予感もあったと言います。
「MIYASAKA」=「上質な普段着」
「MIYASAKA」の目指すイメージは「上質な普段着」。もちろん吟醸酵母で造ったお酒を好む人はいるので、あくまでもアプローチの方向が異なるだけの問題で良し悪しではないとのことです。
そんな「MIYASAKA 」シリーズの一つの集大成が、2018年に生み出された「CORE」。日本酒は醪を絞った瞬間から、酸素に触れる「酸化」などの理由で味わいが変化します。それを極力排除するため、醪の中心部を無加圧で抽出したお酒です。1本のタンクからわずかしか取れない貴重で、バナナやメロンのような香り、ジューシーな甘みがあって微炭酸を感じる仕上がりになっています。
誕生の裏には、勝彦さんが東京勤務時代に居酒屋で飲んで「こんなに人を感動させる日本酒があったのか!」と驚いた「風の森」(奈良県・油長酒造)との出会いがありました。「風の森」は協会7号酵母しか使っていないこと、特殊な搾り方をしていることを聞いたことがヒントになったそうです。
「その時、日本酒は昔ながらの技術で淡々と造られているように見えて、とんでもない進化をしているのだと気付きました」と勝彦さん。2014年に「風の森」油長酒造を訪問した際、13代当主の山本嘉彦さんから「7号酵母はすごい可能性を秘めている。うちは追求し終わるまではほかの酵母を使う気は無い」と聞いたことで、「我々はものすごい宝を持っているんだな」と再認識したと言います。その後、山本さんに色々と教わって誕生したのが「CORE」なのです。
最後に勝彦さんは、「我々も現状に満足せず、7号酵母の使い手としては日本で一番になるため精進していきたい」と熱く語ってくれました。
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宮坂醸造