佐賀県から東洋一の日本酒へ 全国区の「東一」を醸す五町田酒造社長インタビュー
掲載
日本でも有数の米どころで知られる佐賀県には、全国トップレベルの日本酒「東一(あずまいち)」を醸す五町田酒造があります。毎年開催される全国新酒鑑評会で金賞を受賞した銘酒ですが、中でも袋吊りで絞ったことできめ細やかな味わいがでる「雫搾り大吟醸 東一」は全国の日本酒愛飲家が垂涎(すいぜん)の逸品です。また、農家から仕入れるだけでなく、お酒の原料である山田錦を自家栽培していることでも知られています。
香り、旨味、飲みやすさと圧倒的な味のバランスの良さを持つだけでなく、飽きがこないお酒でもある「東一」について、瀬頭一平社長にお話をお聞きました。
蔵と山田錦
(1)「東一」の名前は、東洋で一番のお酒を造るという願いをこめて名付けたそうですね。五町田酒造誕生についてお聞かせください
創業は大正11年、瀬頭本家酒造より分家独立して酒造りを開始しました。酒銘を日本一(にっぽんいち)として創業しましたが、級別審査が始まり、日本より広域の東洋で一番の酒造りを目指し、東一を追加しました。現在でも2つの銘柄を使用しています。
CRAFT SAKE WEEK 六本木2017出店した時の東一
(2)日本でも有数の米どころの佐賀県ですが、五町田酒造では昭和63年から酒造好適米・山田錦の自家栽培をしています。山田錦を選んだ理由と栽培の苦労についてお聞かせ下さい。現在では全て山田錦でお酒を造っているのでしょうか?
福岡国税局の鑑評会に大吟醸酒を出品し始めた当時、佐賀県では酒造好適米が西海134号しかなかったのですが、福岡県ではすでに糸島産の山田錦で醸造されており、なかなか入賞できなかったので、当時の鑑定官室長に先代社長が質問しました。その答えが米の力の差で、西海134号で造った酒がどんなに頑張っても山田錦で造った酒に勝てるわけがないとのことだったそうです。他から入手できなかったので、自家栽培を開始したようです。
山田錦は背が高く倒伏しやすいし、病気、害虫にも弱い品種です。その対策としてポット式の育苗箱と田植え機を使用し、一本ずつの間隔を広げて植えています。また、肥料と水管理を徹底し、背が伸びすぎないように注意して育てています。
現在、純米酒、吟醸酒、大吟醸酒を自家栽培と糸島産山田錦で造っています。その他、町内産の酒米さがの華で純米酒、特別純米酒を、レイホウで本醸造酒と普通酒を造っています。
山田錦の手洗い
(3)佐賀県の日本酒はどのような酒質なのでしょうか?その中で、東一はどのようなお酒なのでしょうか?
今でも普通酒は甘口のお酒が多い状態です。しかし、特定名称酒は蔵によって使用する原料米も酵母もさまざまで、多種多様なタイプがあります。
東一はどちらかと言うと味のあるタイプだと思います。
米を蒸すための自家製の甑(こしき)
(4)五町田酒造がかかげる「吟醸造り」とはどういうことでしょうか?
山田錦の特徴を最も引き出すことのできる酵母は熊本酵母であると考えております。毎年、吟醸造りは終わりのない高みへの挑戦だと思います。
(5)東一は熊本酵母で造っていて、毎年一番出来が良い酒の酵母を培養して翌年に使っているとお聞きしました。そんな東一の酒質についてお聞かせ頂けますか?
ほどよい吟醸香と米の旨味を感じるこのできる酒質が特徴です。
(6)純米酒、吟醸、大吟醸とお酒のランクごとにタンクの仕込む量を変えているとお聞きしました。どういった狙いがあるのでしょうか?
現在の蔵の技術で安定した品質を確保することが出来る、最適な仕込み量とそれに応じたタンクの大きさを選択しています。
(7)東一では純米大吟醸と大吟醸に表されるように、純米系と醸造用アルコールを入れた吟醸系の両方を造っていますが、それぞれの違いはどういったところにありますか?
基本的に純米系は旨味がありまろやかで、吟醸系はややスッキリして香りがある傾向があります。
雫搾り
(8)東一はランクが上がっていくごとにどのような違いがあるのでしょうか?
香りの量が多くなり、味はよりスッキリとしてきます。
(9)東一といえば、数々の賞を獲った「雫搾り」が有名です。こちらはどのような経緯で生まれたのでしょうか?ほかの東一と比べてどのような違いがありますか?
東一雫搾り大吟醸は鑑評会出品酒として醸造したお酒です。現在は出品する前にすべての斗瓶からサンプルを取り出し、きき酒と分析をして出品酒を決めています。ですので、市販酒も出品酒とまったく同じ製法、搾り、貯蔵をしたお酒です。
(10)食生活の変化で、現代人の味覚も昔とはだいぶ変わったと思います。この10年で東一は変化したところはありますか?また、次の10年では東一どのようになっていくのでしょうか?
一番難しいご質問です。
この10年で東一は全体的にやや辛口になり、特に吟醸タイプは香りがすこし多くなり、味はややスッキリになってきたと思っています。
次の10年では、この傾向は引き続きあると思います。しかし、普通酒の甘口の特徴は現状のままぐらいで維持してゆきたいと思っています。純米酒、吟醸酒タイプは料理との相性が大切ですので味覚の変化に対応した新商品も開発する必要があると考えております。