<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 014> 入れ替わってる?
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部下の人数も増えてきて、「人を育てるのは大変なことである」という分かりきったことを、実体験として牛のように反芻して噛み締める日々である。
自分の仕事もしながらの彼らの資料チェックは思った以上に時間と体力を削られ、自分を育ててくれた先輩方のキャパシティーとスキルに感謝・恐縮頻り。自分があんな大きな背中になれるのだろうかと考えると、ついついどこかのフィクションを重ねて「あの先輩と頭脳を入れ替えてこの年度末を乗り切りたいなあ」と空想の世界に飛んでしまう。
息抜きは行きつけの店で。「入れ替わり」をテーマにした面白い酒があったので、頼んでみることにした。
【一杯目】広島 相原酒造 「雨後の月 ORIGIN(オリジン)」
なぜ「ORIGIN」というタイトルになっているかは後で話すとして。
瀬戸内海と3つの山に狭まれた町にある酒造で醸す酒。酒名は、「雨後の月」は、「不如帰」が有名な小説家である、徳富蘆花の随筆「自然と人生」の一節から取ったものらしい。”澄みきって美しい”酒を醸したいという想いが込められているとか。
雨後の月は、メロンや洋ナシを彷彿とさせるフルーティーな香りが特徴。味わいは辛口ではないものの、キレが非常に綺麗で、日本酒に慣れて人でも飲みやすい。
魚の塩焼きや山菜野菜など、素材を活かしたシンプルな料理に合わせやすそうな一杯。
【二杯目】広島 相原酒造 「雨後の月 EXCHANGE(エクスチェンジ)」
酒名もラベルも一杯目とそっくり。違うのはサブタイトルの「EXCHANGE」
これは「雨後の月」の相原酒造と、「賀茂金秀」の金光酒造という、広島県の2つの酒蔵が、それぞれの蔵で造った麹を交換して日本酒造りをする、という企画で生まれたお酒である。「ORIGIN」も「EXCHANGE」も、麹以外は何も変わらない。逆にいえば、「麹が違うとこんなにも違うのか」という驚きを堪能できる1組の日本酒なのである。
そもそも麹とは、米のデンプンを糖に変えるための菌である。こうして糖が生まれるからこそ、アルコール発酵で糖がアルコールに代わる、という仕組みになっている。酒造りの中でも非常に重要な役割を担っている麹を交換するというのは、県内且つ付き合いの長い酒造同士だからこそできる試みである。
賀茂金秀らしさが混ざっているのか、やや辛味というか、重さを感じる味わいになっている。交互に飲むとより違いは鮮明に。重さの分、キレは控えめで、喉の奥で長く味わっていられるお酒。それでも飲みやすさは「ORIGIN」と同じで、雨後の月テイストもしっかり残っているのが面白い。
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日本酒と同様、中身が少し入れ替わったからと言って、完全にその人になれるわけではない。自分の重ねた日々が、代替しようのない性質や価値観となり、血肉になっている。いいさいいさ、このままいけるところまでやってやろう、と気持ちを入れ替える3月。