<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 007~> 貴醸酒の甘い誘惑
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甘党、辛党などという言い方をする。甘党は甘いものが好きな人、では辛党は辛いものが好きな人かと言えば、一般的には「酒が好きな人」である。
では、辛党の人は甘党ではないのか、というと、どっちも好きという人も少なくなく。かくいう自分もケーキも日本酒も大好きということで、自分を律さないとあっという間にカロリー過多になってしまう。美味しいもののためにはそれなりに我慢が必要ということだが、ついつい「我慢するのも体に良くない」と自分に都合のいい言い訳を作ってまんまとありついてしまう。困ったものだ。
そんな中で妙案を考えた。「甘い日本酒を飲めば良いのではないか」
一石二鳥の悦びを噛み締めながら、行きつけに向かう。
【一杯目】滋賀 笑四季酒造 「笑四季 モンスーン」
「笑四季酒造」の看板商品「モンスーン」
酒米の違いで幾つかバージョンが出ているが、滋賀県を中心に栽培されている「吟吹雪」という酒米を使用している。
浮世絵師が描いたラベルの女性もミステリアスで印象的。
まるでマンゴーや桃のようにどっしりとして濃厚な甘味。
酸味はほとんどなく、長く残る余韻も甘味が中心。
まさに「甘い日本酒」である。
今回飲んだこの「モンスーン」は、「貴醸酒」と呼ばれる日本酒の一種であり、その甘味が特徴である。
貴醸酒とは、日本酒を仕込む際、最後に入れる仕込み水の代わりに日本酒で仕込んだものを指す。
なぜ水の代わりに日本酒で仕込むと甘くなるのか、それはアルコール発酵の原理が関係している。
日本酒は、米のデンプンを糖に変える「糖化」と、酵母が糖を分解してアルコールに変える「発酵」を同時に行って造る。
そして面白いことに、この酵母自体は酒には弱く、アルコール度数が一定になると死滅し、発酵が止まってしまう。
そこで、仕込み水をアルコールにすると、糖を完全に分解する前にアルコール度数が上がってしまい、酵母が死滅してしまう。
すると、分解されるはずだった糖はそのまま残り、結果甘くなってしまう、というカラクリだ。
【二杯目】宮城 阿部勘酒造「KAERU sweet 2019」
仕込み水の一部に純米酒を使用している。言うなれば「プチ貴醸酒」と言ったところだろうか。
「何かを変える」というコンセプトを表現するために描かれた水墨画のような蛙の絵も可愛らしい。
メロンを思わせる、上品で豊かな甘み。肴に合わせるというより、単体で味わえるタイプのお酒。
甘い誘惑に負け、ついつい「もう一杯」を重ねてしまう。炭水化物を注文しなかったことだけは、自分を褒めてあげたい。