<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 020> 夏の夜を振り返って
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部下と一緒に息切れしながら四半期末を乗り切っている間に、季節はすっかり秋になった。食器を洗う手に冷たさを覚え、冷房をつけなくても窓を開ければ夜は涼しく寝られる。Tシャツで活動していると夕暮れからは肌寒いくらい。
暑い暑いと思っていたのに、急に夏は姿を消してしまう。毎年その急な別れに戸惑いもし、恋しくもあり。
今回は夏の終わりに飲んだお酒を振り返る。もう一度あの季節に立ち返れるようなラベルは、ついつい見返してしまう。
【一杯目】奈良 油長酒造「風の森 夏の夜空」
酒蔵を構える市内にある「風の森峠」から名付けられた日本酒。この辺りは、日本で一番早く稲作が行われた地域だと言われていて、正に日本酒造りにはピッタリの町といえる。
風の森には3つの定義があって、「無濾過」「生原酒(生酒=加熱殺菌しない 原酒=加水して度数調整しない)」「純米酒(米と水と麹だけ使う)」となっている。その結果、濃厚な旨味とフレッシュな味わいが特徴になっている。
「夏の夜空」はアルコール度数が12%と低めで、もともと飲みやすいお酒が更に飲みやすく。ラムネを彷彿とさせる爽やかな香り、苦味の少ない口当たりで、老若男女誰でも楽しめるお酒になっている。とはいえ、ただ甘いだけではなく、味のキレもよくて、2杯3杯と続けて飲みたくなるのもまた良し。
ラベルに描かれているのは、さそり座。夏の大三角と並ぶ星座として南の空に位置するS時型。アンタレスが赤く強く光っているのも印象的だ。
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【二杯目】栃木 せんきん 「仙禽 線香花火」
1800年ごろに創業となった由緒ある蔵元。仙人に仕える鳥とされる鶴を意味する「千禽」の名前を、代々受け継いでいる。
千禽と言えば「ドメーヌ」。ワインでよく使われる用語で、比較的小規模な生産者が自社の畑のブドウのみからワインをつくることを指す。この日本酒も同様、米は全て、蔵の地下水・仕込み水の水脈上にある田んぼに限定するという拘りを見せている。
仙禽らしい甘酸っぱさを感じるジューシーさと、爽快でクリアな飲み口。
マスカットのような香りのお酒を口に含むと、存在感の強い甘味と旨味が一気に押し寄せてくる。
軽快ながら、余韻は長くしっかりと続くのもオツなもの。
アーティスティックなラベル。赤や黄色の歪なドットの集合で、でも一目で線香花火と分かるデザイン。飲んでいると、あの儚い火花を思い出してしまう。来年もぜひ飲みたい一杯。
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あっという間にハロウィーンが来て、すぐにクリスマスムードになり、年の瀬を迎えるのだろうか。仕事で慌ただしい時間の中でも、季節の移ろいを感じようと決意しつつ、スーツのジャケットを羽織る。