<Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 018> 冷酒と涼・花・雪
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某旅行のキャンペーンが始まるずっと前から予約していた家族旅行を延期した。コロナ禍では仕方ないとしても、「ではいつになったら行けるのだろうか」という答えの見えない問いにストレスを覚える。そして、夏休み前だけに学生時代を思い出してしまい、「映画制作部だった高校のときにこの状況だったら、夏休みも減るし撮影すら満足に出来なそうだ」「学園祭運営委員だった大学生のときなら、そもそも開催できるかどうかの瀬戸際でモヤモヤしていただろう」とそれ以上のストレスを抱えていたに違いない、と今の学生達に勝手に共感したり。
気温も高くなってきて、まもなく暑い夏がやってくるという時期。前回は日本酒のロックを紹介したが、今回も少し前の酒も紹介しつつ、冷酒の魅力に迫っていく。
【一杯目】群馬 龍神酒造 「尾瀬の雪どけ 夏吟」
蔵の創業は南北朝時代まで遡るとも言われている、非常に歴史のある酒蔵。尾瀬の雪どけ水を使用して酒業を始めたらしく、酒の名前にそれがよく表れている。
もともとふくよかな味わいがウリのお酒だけど、夏酒ということで果実味と清涼感を併せ持った一杯になっている。米の旨味も健在。コクもありつつ、飲み疲れしない。
とはいえ、比較的重たい酒ではあるので、ロックで頂く。キンキンに冷えることでやはり口当たりはかなり軽快になり、スッと入ってくるのが良い。キュッと飲みたいときにはピッタリだ。
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日本酒ではよく「冷や」という言葉を使うが、「冷や」と「冷酒」は違う。
「冷や」は常温を指す。かつて冷蔵庫などもなく冷やして飲むことが難しかった時代に、燗酒と比較して冷やという名がついたものだ。
一方、「冷酒」は氷や冷蔵庫で冷やした酒。香りが高く、キリッとシャープな味わいになる。
そして、温度によって名称が決まっている。
15度 涼冷え(すずひえ)
10度 花冷え(はなひえ)
5度 雪冷え(ゆきひえ)
ここまで細かく温度を意識するお酒は世界でも珍しいと聞く。
5度ごとに呼び方が違うという繊細さと、風情のある名称がとても好きだ。
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【二杯目】山形 小嶋総本店 「洌 亀ノ尾」
亀ノ尾(かめのお)というのは使用している米の名前。酒米というイメージが強いが、
実は食用米として開発されたお米。コシヒカリやササニシキの系譜を遡れば、亀ノ尾に辿り着くのだ。
冷蔵庫で冷やしたうえでロックにし、「雪冷え(10度)」で頂く。
ライチやマスカットを思い出させるスッキリとした香りが、冷たいことでより際立つ。
お米の甘味も綺麗に出ていて、キュウリの一本漬けやいんげんの白和えなど、夏らしい肴に合う(写真はスイカ+黒ゴマペースト)。
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新しい生活様式が声高に叫ばれる今夏。新しい飲み方として、花冷えや雪冷えもいかがですか、と無理やりひっかけて薦めてみたりする。