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日本全国酒蔵レポート/「播州一献」山陽盃酒造『明寿蔵』(兵庫県養父市)

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全国に酒造場は約1,600場あります。小さな蔵から、大きい蔵…たくさんあって、生きているうちにすべてのお酒を飲むことは不可能にも思えます。だからこそ、蔵やお酒のストーリーに触れ、興味をもったものから飲んでみて、あなただけのお気に入りの一本を見つけてみましょう。

 

3蔵目は、ちょっと志向を変えて、「播州一献」を醸す「山陽盃酒造」の鉱山『明寿蔵』です。

 

日本酒の熟成に適した”鉱山”という環境

「播州一献(ばんしゅういっこん)」「ののさん」を醸す山陽盃(さんようはい)酒造は、1837年(天保8年)に創業。揖保川のほとり、日本酒づくり発祥の地のひとつとも言われる兵庫県宍粟(しそう)市に位置する、180年もの長い歴史を持つ酒蔵です。今回、専務取締役の壺阪 雄一(つぼさか ゆういち)さんに案内していただいたのは、蔵から車で1時間ほどいった養父(やぶ)にある史跡・明延(あけのべ)鉱山。この一画を『明寿蔵(めいじゅぐら)』を名づけ、一部のお酒が貯蔵、熟成しています。

 

近ごろでは新酒ができてすぐ出荷されるものや生酒も多く、”熟成”と聞くと「古酒?」と思ってしまう人もいるかもしません。しかし熟成は必ずしも数年寝かせる古酒とは限らず、日本酒としてのスタンダードな文化です。昔は今ほど冷蔵設備が整っていなかったこともありますが、出来たたて、火入れしたばかりの酒はやや荒々しく(現在ではそれをウリにして商品化されることもありますが)、さらに加水した酒は酒の分子と水の分子が馴染まず角がある。そこで半年間の時間を経て出荷されるのが通常でした。

しかし、ただ期間を経るだけでおいしい酒になるかと言えば、それは全く違います。光を避けた場所で、夏も冬も同じ温度を保つことで酒にストレスがかからない状態で貯蔵することが、より良い条件であると言われています。良い環境条件の整った貯蔵庫を求めていた「山陽盃酒造」が出会ったのが「明延鉱山」でした。当然光量は少なく、坑道内は1年を通して12~15℃の温度が保たれています。

近代産業遺産認定された「明延鉱山」

まずは「明寿蔵」がある、鉱山の歴史について触れておきましょう。

長いあいだ三菱金属所有だった鉱山ではおもに、錫(すず)、亜鉛、銅が採掘され、最盛期には人口4,123人を数えました。1954年(昭和29年)には人口の多さをカバーするため日本ではじめて団地スタイル住居が建設されたり、そこに住まう人々を退屈させないたくさんの福利厚生施設が建設されます。1500人を収容できる劇場には多くの芸能人が訪れ、映画館では最新の映画が上映されました。当時7~8万円(現在の価値で約300万)もするブラウン管のテレビが、鉱山関係者だけで1500台は売れるなど、東洋一ともいわれるほどの栄華を極め、日本の一時代を担ったのです。

 

しかしプラザ合意後、円高になり市況が下落。海外に市場を奪われる形で、まだ採掘可能な鉱脈を残したまま1987年(昭和62年)に閉山されました。その後、学習施設として鉱山探検に活用されるなか、2007年(平成19年)経済産業省「近代化産業遺産認定遺産リスト」に選定されました。そのため現在では、学童だけでなく大人が社会科見学に訪れるなど、新たな注目の仕方を見せています。

11月中旬に訪れた際には、標高が高いため鉱山の入り口付近は肌寒く、坑道がやや暖かく感じられるほどでした。そんな場所に「播州一献」の貯蔵庫はあります。

「明寿蔵」に眠る養父限定の酒「仙櫻」

「明寿蔵」のある養父市の有機無農薬栽培「蛇紋岩米」を使用し造られ、半年間坑内で熟成されてから、同市内の小売店でしか販売されない「仙櫻」、「熟成大吟醸」、以外にも雄一さんが実家である蔵に戻られた今から9年ほど前に「山廃づくりや純米の酒の方が、より良い熟成状態になるのではないか」と考え、熟成をスタートしたものを含め、数多くの酒が、出荷をいまか今か…とは待たずにゆっくりと眠っています。

1本ずつ瓶詰めされ、穏やかな環境でじっくりと熟成されたものは、タンク貯蔵した酒では味わうことのできないまろやかなコクと深みが出てきます。

▲それぞれのスペック、年号が記されている。

 

▲灯りをつけなければ、内部は暗く、日本酒の貯蔵にとって最適な環境となっている。

入り口や坑道は狭いため、一輪車に乗せて手作業で搬入している。

▲別の区画では、近隣の醤油メーカーも鉱山貯蔵中。

 

フレッシュなお酒や華やかなものなど、幅広いラインナップを持つ「播州一献」。食事と合わせるための食中酒を主体としているので、本醸造から純米大吟醸までどのお酒も飲みやすく、初心者でも日本酒愛好家でも満足できる魅力があります。しかし『明寿蔵』で熟成されたお酒にはさらに、時間を重ねたからこその、角が取れた丸みや落ち着きのあるまろやかさなど、数々の良さが存在するのです。半年前、3年前、10年前…の「播州一献」を飲みながら、”あの頃はどうしていただろう”と想いを馳せる時間は、贅沢で貴重なものだと思います。慌ただしく生き急ぐ毎日のなかで、ふと一度立ち止まり、ゆっくりと盃を傾ける時間を自分にプレゼントしてあげてはいかがでしょうか。

 

<山陽盃酒造> ※明寿蔵の情報ではありません

代表銘柄:「播州一献」「ののさん」
兵庫県宍粟市山崎町山崎28
(姫路駅北口よりバスで約1時間、山崎バスターミナルから徒歩6分)
TEL:0790-62-1010
ホームページ:http://www.sanyouhai.com/
創業:1837年(天保8年)
蔵見学: 要予約

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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