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酒造大手メーカーTOP3「月桂冠」(中編) 技術革新を続けてきた月桂冠が見据える今後の商品開発

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全3回でお届けする日本酒「月桂冠」(京都・伏見)の酒造り。第2回は、業界初の四季醸造システム開発、2008年に日本酒業界初の糖質ゼロの日本酒を商品化するなど、技術革新をもたらし続けてきた月桂冠の今後の商品開発に迫ります。

第1回

月桂冠、技術革新の歴史

1637年創業の月桂冠は日本TOP3の日本酒出荷量を誇るだけでなく、日本酒業界に技術革新をもたらしたメーカーです。“一代で事業規模を100倍にした”11代目・大倉恒吉さんの代に日本酒メーカーで初めて研究所(現・月桂冠総合研究所)を創設し、東京帝国大学卒の濱崎秀さんを初代技師として採用し、日本酒造りに科学技術を導入しました。

研究所は設立当初から目覚ましい成果を上げました。当時の日本酒は樽詰めが主流でしたが、洗浄しにくく、また酒造りには科学技術が反映されていなかったことから、酒が腐ることが少なくありませんでした。対処法として多くの酒造メーカーは防腐剤を入れていたのですが、月桂冠では酒を腐らせる乳酸菌の混入を抑える方法と加熱殺菌の条件を確立して業界初の「防腐剤無しの瓶詰め酒」を商品化したのです。

日本初の四季醸造蔵である大手蔵(画像提供:月桂冠)

日本初の四季醸造蔵である大手蔵(画像提供:月桂冠)

さらに1961年には、江戸時代以来の寒造り体制を一変させる四季醸造蔵(現・大手一
号蔵)を完成させ、新しい醸造システムを確立。温度と湿度、風量などを調整して冬場の環境に保つことで気候に左右されずに酒造りができるようになり、年間の催事に応じて品揃えされる市場の売り場にも対応しやすくなりました。

いち早くアメリカでの酒造りに着手

米国月桂冠(画像提供:月桂冠)

米国月桂冠(画像提供:月桂冠)

四季醸造システムによって日本と異なる環境での酒造りも可能になったことで、月桂冠はいち早く当時の海外で最大市場だったアメリカでの日本酒造りに着手しました。1989年にアメリカのカリフォルニア州に米国月桂冠株式会社を設立。独自の技術開発をベースにした米蒸し・麹造り・醪造り・酒搾りまでの工程を機械化・自動化・連続化した装置と、温度・湿度・微生物の科学的管理を持ち込み、日本とは異なる環境でも酒造りができる蔵を建設しました。

米国での酒造りを決めたのは、当時、日本からの輸出では鮮度管理に課題があったこと、円高だったので輸出だけでは貿易赤字になってしまうことなどが理由でした。ただし、アメリカでは、日本から渡った酒米「渡船(わたりふね)」と現地の米を掛け合わせた「カルローズ」という、それまで醸造経験のなかったお米を使って造る必要があり、難しい挑戦であるのは変わりませんでした。

米国月桂冠で造られている日本酒(画像提供:月桂冠)

米国月桂冠で造られている日本酒(画像提供:月桂冠)

それでも現在はアメリカ国内だけでなく、カナダや欧州、南米、アジアへの供給基地として年間出荷量も日本国内のランキングに当てはめれば12〜13位に入るほどになっています。米国での現地生産と日本からの輸出との両輪で、アメリカを上位に世界46ヵ国に供給しているのです。

今後の月桂冠の商品造り

月桂冠では、品質第一の姿勢を崩さないこと、競争力のある価格で高品質なお酒を提供することを重視しています。マーケティングや商品企画、プロモーションの部署が連携し、市場調査や営業活動を通じて聞く消費者の声も活かし、年間約10アイテムもの新商品を発売しています。

月桂冠「糖質ゼロ」(画像提供:月桂冠)

月桂冠「糖質ゼロ」(画像提供:月桂冠)

近年は小規模メーカーが、丁寧に手間暇かけて小さな仕込みで造っていることを前面に押し出し、それが訴求力の強さとなって評価されています。経営者自身が酒造りに携わっていることも多く、試飲会イベントなどに顔を出して造り手の思いをダイレクトに、消費者に分かりやすく伝えているからです。月桂冠でも、造り手の思いを消費者に伝えながら、大手メーカーの強みを生かして消費者の意向に寄り添った商品開発に取り組んでいます。

その代表例が2008年に月桂冠が日本酒で初めて商品化した「糖質ゼロ」。健康ブームで糖質ゼロ、カロリー控えめなどをうたった発泡酒やリキュールが多数商品化される中、ニーズに応えて6年間かけて開発されました。市場調査から研究開発、ブランディングまで一貫して消費者のニーズに応えられるのが月桂冠の強みです。

日本酒の消費量は全盛期の三分の一にまで減少、その時月桂冠は?

日本酒の消費量は1970年代をピークに、現在ではおよそ三分の一にまで減少。日本酒に限らず国内では飲酒人口が下がる一方、世界では市場が広がっています。月桂冠では「消費者の美味しさの尺度が多様化した」ことで、高品質化と共に、新たなニーズに応えられる商品開発を課題にあげています。

また、今は海外でも日本酒に興味を持つ人が増え、アメリカやイギリスなどでマイクロブリュワリーでの酒造りが出てくるなどの流れがあることも見逃せません。「国内の基準だけでこれが最高の商品だと満足するのではなく、世界に視野を広げた挑戦が必要」だと言います。世界に広く浸透したワイン文化の中で日本酒が評価されるためには、日本とは違う角度での酒造りや商品化が求められるからです。

海外ではマーケティング戦略や日本酒の訴求の仕方も変わる、そして、それは日本国内にも言えるため、しっかり市場を見て、その時々の消費者が求めるものを届けることを重視しています。月桂冠はこれまで、スタンダードな酒質だけでなく「にごり酒」「生酒」「低アルコール酒」「長期熟成酒」ほか様々なタイプの酒造りに取り組んできた歴史があり、データや経験の蓄積も豊富なので、そこに切り込んでいけると自信を持っています。

京都・伏見の酒文化を伝える酒造用具類などを展示している月桂冠大倉記念館(画像提供:月桂冠)

京都・伏見の酒文化を伝える酒造用具類などを展示している月桂冠大倉記念館(画像提供:月桂冠)

また、インバウンドで外国人観光客が増え、国内でも酒蔵開放や酒蔵体験ができる「酒蔵ツーリズム」への関心が高まっている中、観光地として人気のある京都でも蔵元が集まっている伏見の立地を活かし、月桂冠大倉記念館や伏見酒造組合全体でのイベント開催にも力をより力を入れていくつもりです。

月桂冠大倉記念館内:醪(もろみ)桶(画像提供:月桂冠)

月桂冠大倉記念館内:醪(もろみ)桶(画像提供:月桂冠)

後継者問題が取りざたされる中、月桂冠で酒造りをしたい若者が来てくれる

今回の取材で驚いたのが、全国各地では蔵元や杜氏の後継者問題が取りざたされる中、月桂冠では「逆に今は酒造りがしたいと思っている人が結構おられると感じている」そうです。世界でもミニブリュワリーで酒造りに挑戦する事例が出てきていることしかり、実際に月桂冠で酒造りに挑戦したい人が農業や食品系の高校や高等専門学校、農学部や醸造学部のある大学から入社して来るとのこと。話を聞くに、国酒である日本酒の未来の造り手を担う若者への呼びかけをしていることも大きいと感じました。

月桂冠大倉記念館内:酒造用具。酒造りに根気が必要なのは科学技術が導入された今も変わりません

月桂冠大倉記念館内:酒造用具。酒造りに根気が必要なのは科学技術が導入された今も変わりません

現場からは「今の若い人は非常にまじめだし、飲み込みが早い」との声が上がっていて、月桂冠の新人研修である内蔵での昔ながらの酒造りを経験した人の中からは、「今度はこういう風にやってみたい」という前向きな声も聞くそうです。農業も食品開発もコツコツと農作物や微生物を育む根気がいる仕事なので、そういうことを勉強してきた人は酒造りに向いている方が多いのかもしれません。

月桂冠

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ライター プロフィール

乃木章

乃木章

小説家/ライター/日本酒唎酒師/鶴ヶ島まちおこし委員会会長。
地元の酒屋さん「キングショップ誠屋」眞仁田社長との出会い日本酒を飲み始める。お酒は苦手だったのに、日本酒が好きになって以来、地元を中心に日本酒好きな人を増やそうと月1で日本酒イベントを開催している。
@Osefly

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