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酒造大手メーカーTOP3「月桂冠」(前編) パック酒から吟醸酒まで最高品質を追求する酒造りの核は「職人の熟練技能」

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日刊経済通信社が発表する日本酒出荷量TOP3に入る「月桂冠」は日本酒業界を代表する酒造メーカーで、日本酒を普段飲まない人でも名前を知っているのではないでしょうか。

月桂冠当主・大倉家の本宅(手前、私邸)と月桂冠本社(画像提供:月桂冠)

月桂冠当主・大倉家の本宅(手前、私邸)と月桂冠本社(画像提供:月桂冠)

京都・伏見で1637年に創業した月桂冠はいわゆる大手メーカーであり、「パック酒などに代表される普通酒を大量生産している」というイメージが強いため、ともすれば小規模メーカーと比べて品質に注力していないと思われがちです。

しかし、実際はデータに裏付けされた醸造技術と近代設備を兼ね備え、普通酒から特定名称酒の全ランクで最高品質を追求した酒造りを徹底しています。そして、最も大事にしているのが「職人の熟練技能」であり、麹菌や酵母という微生物が相手なだけに機械頼みではない五感での酒造りの技術を伝承しています。

月桂冠内蔵酒造場での酒造りの様子(画像提供:月桂冠)

月桂冠内蔵酒造場での酒造りの様子(画像提供:月桂冠)

4蔵の出品酒全てが「全国新酒鑑評会」金賞を受賞

古くから酒造りが盛んな伏見で、初代大倉治右衛門から始まった月桂冠は、鳥羽伏見の戦いによる戦火、干ばつや水害、時代ごとの目まぐるしい街の変化を乗り越え、2017年に創業380年を迎えました。

月桂冠の事業規模を100倍にし、酒の品質を追求するための研究所を創設した11代目・大倉恒吉さんの頃より、技術研究に基づいた最高品質の酒造りに取り組んできました。大手一号蔵、二号蔵、昭和蔵、内蔵の4蔵で年間約25万石の日本酒の生産をしています。

大手一号蔵・二号蔵

(画像提供:月桂冠)

(画像提供:月桂冠)

通常、日本酒は冬場の寒造りが定着しています。そんな中、月桂冠は日本で最初に四季醸造システムを備えた大手一号蔵を1961年に、大手二号蔵を1973年に竣工。温度と湿度を冬場と同じ環境に調整し、微生物の管理を徹底することで、年間を通しての酒造りが行えるようにしました。ソフトタイプのパック酒などの普通酒から大吟醸酒、日本酒の代表的なコンクール「全国新酒鑑評会」への出品酒まで全ジャンルのお酒が造れる設備を揃え、「糖質ゼロ」や「つき」など定番のブランドや新商品もこちらで製造しています。月桂冠の多くのお酒造りをこの2蔵でまかなっています。

昭和蔵

(画像提供:月桂冠)

(画像提供:月桂冠)

昭和初期の1927年、当時では珍しい冷房、エレベーターを備えた鉄筋コンクリート2階建ての酒蔵を竣工。1928年には天皇陛下の即位大礼のための御用酒を醸造して京都御所に納めました。昭和蔵構内では酒造りのほか、同じ構内で少量から一升瓶までの瓶詰め、仕上げ工程などを担っています。

内蔵(うちぐら)

濠川からの月桂冠内蔵酒造場眺望(画像提供:月桂冠)

濠川からの月桂冠内蔵酒造場眺望(画像提供:月桂冠)

明治時代に建造された蔵で、月桂冠大倉記念館に隣接しています。蔵の中は四季醸造ができる環境を整えており、予約制で来館者が酒造りを見学することができます。内蔵の酒造りを担う相川元庸さんは、全国にいくつかある酒造りの専門集団「杜氏」の一つ但馬杜氏(兵庫県)に認定されており、毎年、製造部門の若手社員に酒造りを教える役割も担っています。

造り手が技術研鑽に努めてきた歴史

伝統的な酒造りの専門集団「杜氏」は漁業や農業を行っている者が、農閑期である冬場に出稼ぎとして蔵で酒造りをしてきた歴史があります。しかし、月桂冠は1961年にいち早く、年間雇用の社員による四季醸造体制を敷きました。

1996年頃までは山内(秋田)・南部(岩手)・越前(福井)・丹波(兵庫)・但馬(兵庫)・広島(広島)など最大で6流派の杜氏が月桂冠に在籍、社員が造る大手一号蔵・二号蔵と、杜氏が造る寒造り蔵との両輪で酒造りを行って切磋琢磨してきました。出稼ぎによる杜氏の酒造りは2011年度まで続き、以降は社員が担うようになりました。

内蔵を担う相川元庸さんの表彰状

内蔵を担う相川元庸さんの表彰状

四季醸造の開始から50年以上を経た現在では、杜氏に匹敵する技術を持った社員が多数育ち、寒造り蔵を含む各蔵を担当。実は4蔵全てで「全国新酒鑑評会」への出品酒を造っており、社員だけの体制となってからも、2013年、2015年、直近の2017年に4蔵全ての出品酒が金賞を受賞するという快挙を達成しています。

また、その中でも大手二号蔵は、ほとんどの蔵が味と香りを調和させるために醸造アルコールを使った大吟醸酒を出品するところ、使わずに純米大吟醸酒で金賞を受賞しています(2017年)。酒造りの技術としてはそれだけ高いものを持っている証明であり、全国各地の人気銘柄を造る小仕込みの酒蔵でも簡単には到達できないレベルだと言えます。

技術を持った社員を育てるために経験を積ませる教育システム

月桂冠は普通酒の商品が市場で広く認知されていることから、特定名称酒はほとんど造っていないイメージがあります。確かに日刊経済通信社が発表した「2017年上位銘柄パック類出荷数量」では全国2位の18万199石(1石は180リットル)ですが、同時に「2017年特定名称清酒出荷量」では全国7位の2万7823石とトップレベルの生産量を誇ります。

月桂冠では「QUALITY・CREATIVITY・HUMANITY」を基本理念とし、吟醸酒クラスだけを繊細に造るのではなく、大吟醸から一般の酒までそれぞれのクラスで最高品質の酒を造ることを目指しています。現在の酒造りでは、精白し、米を洗い、蒸し、麹を造り、仕込むといった基本的な作業だけでなく、高度な醸造機械を使いこなす必要があります。また、微生物がうまく働くように温度や湿度、風量など機械的な調整が欠かせません。

内蔵酒造場での酒造りの様子(画像提供:月桂冠)

内蔵酒造場での酒造りの様子(画像提供:月桂冠)

しかし、それでもなお近代的な設備だけで良い酒が造れるとは考えずに、造り手の官能と手触りの感覚を大事にし、人材育成には力を入れています。月桂冠の製造部門の新入社員は、まず内蔵で「全国新酒鑑評会」の出品酒、最高レベルの大吟醸造りの補佐に携わります。内蔵は機械化に依らない昔ながらの酒造りを行っているので、相川杜氏から五感や手触りの大切さといった酒造りの基本を学ぶことができます。

内蔵酒造場前の井戸(画像提供:月桂冠)

内蔵酒造場前の井戸(画像提供:月桂冠)

また、月桂冠は関連会社として同じ伏見に松山酒造を持っていますが、こちらでは月桂冠で長年酒造りに携わった後、今年、「京都府現代の名工」にも選ばれた小田瞬司さんが醸造部長を務めています。冬の寒造りの時期には月桂冠の若手社員が出向して小規模蔵での酒造りを学んでいるのです。

大手蔵では基本的に工程ごとに分業体制を敷いていますが、大手一号蔵の吟醸ラインではチームが原料処理から発酵管理、搾りまで一貫して造る体制を採っています。さらに、若手が研修のため自分達でタンク1本分の仕込みに最初から最後まで取り組むといった機会があり、その場合には、ベテランがサポートしつつも全面的に任せるなど、試行錯誤しながら造る経験を積むことを大切にしています。

月桂冠最大の強みは研究所と蓄積されたデータ

11代目が明治期に、防腐剤無しの日本酒を造るなどの成果を上げた研究所創設の動機となった「品質第一」の考え方こそが、今日の月桂冠の酒造りの指針となっています。その最大の特徴は「データと職人の感性がリンクできること」。職人が感性を活かして判断した結果をデータ分析によって数字で検証ができるのです。

月桂冠大倉記念館展示の11代目が建てた当時の研究所の模型

月桂冠大倉記念館展示の11代目が建てた当時の研究所の模型

現場の分析班がデータを取って造り手に共有し、研究所では高度なノウハウを形式化して新たな技術開発につなげます。普通酒から大吟醸酒まで、これまで仕込んだ一本一本のデータが蓄積されているので、迷った時に立ち返ったり、上手くいった時の造りを参考にしたりすることで品質が安定します。

また、特別な酵母開発ができるのは研究所があるからこそ。酒造りに有用な酵母をこれまでいくつも開発してきました。まず、研究所で多くのストックの中から選抜した酵母を、小さなスケールの仕込みで試し、醸造現場でだんだんと大きな仕込みにスケールアップしていく。このような試行錯誤が、「糖質ゼロ」の日本酒など業界があっと驚く商品開発や、確かな製品の供給に繋がっています。

月桂冠「糖質ゼロ」(画像提供:月桂冠)

月桂冠「糖質ゼロ」(画像提供:月桂冠)

「人・技術・設備」によって造られる高品質な日本酒を徹底追求しており、但馬杜氏・相川さんや京都府現代の名工・小田さん、京都市が認定する「京の名匠」に選ばれた大滝義則さん、中堅の技術者に送られる「未来の名匠」に選ばれた山中洋祐さんなど優れた技術者が多く揃った月桂冠。並み居る全国の酒蔵が発売する製品の中で、パック酒ならパック酒の中で最高のレベルを、大吟醸酒なら大吟醸酒の中で最高のレベルを何時だって目指してきました。

月桂冠

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ライター プロフィール

乃木章

乃木章

小説家/ライター/日本酒唎酒師/鶴ヶ島まちおこし委員会会長。
地元の酒屋さん「キングショップ誠屋」眞仁田社長との出会い日本酒を飲み始める。お酒は苦手だったのに、日本酒が好きになって以来、地元を中心に日本酒好きな人を増やそうと月1で日本酒イベントを開催している。
@Osefly

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