Work Rice Balance ~仕事と日本酒と人生を味わうエッセイ 009 酸いも甘いも
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仕事をしていると予期せぬトラブルやクライアントとの行き違いもしばしば起こるもので、冷静に対応しなければと思いつつ、ついつい部下を急かしたり、苛立った口調になったりしてしまう。
その後、ひと段落してから「あの時のコミュニケーションはダメだった……」と反省することも多々あり、後悔することが分かってるならしなきゃいいのに、と理解しながらも、再びそういうシーンになるとついまたイライラしてしまう、という残念さ。酸いも甘いも噛み分け、早く一端になりたいものである。
そうだ、その言葉の通り、甘いものと酸っぱいものを噛み分けて成長しよう。方法としては完全に間違っているのは承知の上だ。ただ自分が食べて飲みたいだけだ。
甘いものは仕事中に食べることが多いものの、酸っぱいものは食べることが少ない。そういう時はお酒で補おう。
というわけで、今日は酸味の強い日本酒を。
【一杯目】広島 今田酒造本店 「富久長 海風土(シーフード)」
とてもオシャレな当て字のこのお酒、ビックリするほど酸味が強い。
「牡蠣をはじめとする、地元の海が育む食材を使った料理に合うお酒を造りたい」という思いで醸したらしい。
鼻を置抜ける爽やかな酸味と、魚介類の生臭みを綺麗に流す後味は、白ワインのよう。アルコール度数も普通の日本酒よりやや低めのため、料理と一緒に飲みやすい。
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酸味の強い日本酒を造る方法は色々あるが、代表的なものはこの海風土のように「使用する麹を変える」というもの。通常日本酒では黄麹を使うが、焼酎でよく使用する白麹を使うとクエン酸が大量に出る。焼酎は蒸留するためこのクエン酸が残らないが、蒸留しない日本酒はそのまま酸が残る……という具合だ。
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さて、お次はこんなお酒。
【二杯目】福島 会州一酒造 山口合名会社 「會Ⅱ(かいツー)」
創業400年に届こうかという老舗の酒蔵が造った変わり種。
深い熟成香と舌を刺すような酸味で、一口飲むと口の中が驚く。熟成感が苦手な人は得意じゃないだろうし、酸味が苦手な人も得意じゃない味わい。ここまでくると「キワモノ」に近いけど、面白い日本酒を探してる人にはピッタリかもしれない。
【三杯目】千葉 寺田本家 「醍醐のしずく」
鎌倉~戦国時代に生み出された『菩提もと』という方法で仕込んだ酒。色が既に日本酒のそれではない。
ラベルを隠されて飲んだら日本酒と当てることはほぼ不可能だと思うし、日本酒と分かっていて飲んでも「管理方法間違えて悪くなっちゃってるのかな」と思ってしまいそうな強烈な酸味。ラムやラタトゥイユなど、それ自体にクセや濃い味わいのある料理と合わせるのが良さそう。
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酸味を噛み締めて店を出る。いつかどっしり構えられるだろうか、と不安になりながらも、クール且つスマートに処理していく上司を思い出し、このまま経験を積んでいけばああなれるかもという希望を抱きながら地下鉄に向かう。