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昔ながらのつくり方を曲げない。秋田の実直な酒蔵「雪の茅舎」/齋彌酒造店(秋田県由利本荘市)

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全国に酒造場は約1,600場あります。小さな蔵から大きい蔵…たくさんあって、生きているうちにすべてのお酒を飲むことは不可能にも思えます。だからこそ、蔵やお酒のストーリーに触れ、興味をもったものから飲んでみて、あなただけのお気に入りの一本を見つけてみましょう。

日本酒ライターの友美が全国の日本酒蔵に足を運び、その姿や様子をお届けする連載企画。5蔵目は、「雪の茅舎」を醸す「齋彌酒造店」です。社長の齋藤浩太郎さんにご案内いただき、杜氏の高橋藤一さんにお話しをうかがいました。

歴史ある11棟の登録有形文化財と”のぼり蔵”

「雪の茅舎」と聞けば、綺麗で雑味のない味わい。国内外問わず万人に勧めることができるお酒というイメージがあります。香りは程よく華やかで、仕込み水由来の柔らかなテスクチャのなかにギュっと米の旨味が詰まっており、ひと瓶の中にはまとまりのある上品さと柔らかさを感じます。食事からデザートまで何でも合わせてしまうお酒、その秘訣を探るため今回はお邪魔させていただきました。

1902年(明治35年)創業の齋彌酒造店は、11棟もの建物が連なる、入り口から蔵の奥にいくにしたがって段々と高くなっていく”のぼり蔵”とよばれ、蔵のなかが坂になっているのです。2009年に発刊された「美酒の設計 極上の純米酒を醸す杜氏・高橋藤一の仕事」に大きな影響を与えられたわたしにとって、想像を大きく膨らませ夢見ていた場所。実際目の当たりにするとその想像よりもずっと急で、下るときには少し早足になってしまうほどに角度がついていることがわかります。登録有形文化財に登録されているという創業当時のままの住宅・店舗・蔵などはモダンな洋風デザインを多く取り入れており、名家としての風格と歴史を静かに語りかけてくるかのようです。

山内杜氏とともに「三無い造り」をする若き蔵人たち

酒づくりにあたる蔵人は、山内杜氏である高橋藤一さんを筆頭とし、副杜氏、正社員9人、そして夏は実家で米作り、冬場は齋彌酒造店で酒づくりに従事する農家(専業農家の長男が多い)を含めた計21人。蔵人の平均年齢34歳という体制です。「雪の茅舎」「由利正宗」「美酒の設計」は地元のみならず首都圏など全国、そして海外にも輸出されています。1987年(昭和62年)に純米酒づくりを復活させて以来増え続け、現在では90%が「雪の茅舎」「美酒の設計」の名前で出される純米酒、純米吟醸酒や純米大吟醸酒を中心とした特定名称酒が占め、普通酒は10%。それでも製造量に対して、やや人員が多いのは手間と時間がかかる昭和初期のつくり方を守り続けていることが理由です。

「昔ながらの山廃づくり」…といっても純粋培養された乳酸菌を添加するところも多くあるなかで、「自然に生み出される乳酸菌と純粋培養されたものとでは違いがある」と、人間の力によって無理に操作することはしていません。菌が健康に働くために「一度汚染された場所はなかなか元通りにならないから」と酒づくりをする冬場だけでなく夏場の清掃も徹底。

ほかの蔵と比べて(浸漬のときに糠が出ないほど)しっかりと洗う洗米作業、乳酸菌も協会酵母を添加しない山廃づくり、清掃…と、この蔵ではどうしても要所要所で人手が必要になってきます。

▲高橋杜氏が蔵にきて2年目に協会酵母の使用は廃止。酵母の培養だけはほかの誰も触らせない杜氏だけの仕事。自社酵母だけ11種類使い分ける。その全てを将来のことも考え、マイナス85度で100年分ずつ凍結保存している。

 

  • 「三無い造り」
  • 1、櫂入れをしない
  • 2、濾過をしない
    3、割り水しない

「山内(さんない)杜氏」にゴロ合わせして「三無い(さんない)造り」と呼ぶ、この3つの指針を大切にしています。これによって、酵母菌の力がじっくりと引き出され強いものになります。そして炭のフィルターを通さないから、旨味成分も排除されることなく酒に残り、さらに割水をしない原酒のまま出荷されるのでつくり上げた豊かな風味そのままにボトリングされます。現在の体制になって21年目ですが、醸造を専門に学んだ者や、他の蔵で修業を積んだ者はおらず、杜氏からの教えをもとに齋彌酒造店としてやるべきこと、「蔵つき酵母の保存と培養」「山廃づくり」など、この蔵だからこそできることに専念しているのが特徴です。

▲「しっかり研いた米からキレイで強い麹をつくる」という秋田らしい良質の麹米を見せてくれる齋藤社長

原酒は旨味をダイレクトに感じる反面で、「ひと口目は美味しいが、飲み疲れて長時間は飲むことができない」「盃が進まない」ということも起こり得ます。でも「雪の茅舎」は違います。日本酒ビギナーにも熟練の愛好家にも愛される飲み口のよさ--これは、「原料米」へのこだわりが理由のひとつとして挙げることができます。

 

良い酒づくりには良い米づくり。原料米第一主義

▲穏やかな笑顔の高橋藤一杜氏だが、米を語るときの眼の奥はキリッと力強く鋭く光る。

自身も酒米づくりをしていたという高橋杜氏。蔵人21人のうち11人は農家であり、彼らの米を採用することに関して、「蔵の仕事と田んぼのことを両方をわかってる人は貴重で大切な存在です。原料米が将来さらに最重要となる」「自分がつくった米で酒づくりをすると、どうしたって気持ちが入るし、その米のこと、その年の米がどういう状態だったかとよく知っている」と語ります。

秋田酒こまちなどの地元産米はもとより、兵庫県黒田庄産の山田錦など使用するすべての米の田んぼに毎年必ず訪れ確認して回るそう。さらに1年に1度会合を開き、分析の数値や官能面でのデータからそれぞれの農家の米を評価をし、時には「もっとこういう米を作ってほしい」と要望を言うこともあるそうです。農家同士の交流とともに競争が生まれるため、お互いの意見交換をするに留まらず緊張感をもって更なる成長を目指すのです。

人も酒もむりなく、本来の力を引き出す酒づくり

▲秋田杉からつくられた麹室は25年目を今期で迎えるが、歳月感じさせないほど清潔でピカピカ。機械を入れなくても杉が乾湿を調整してくれているため室内は麹室特有のむわっとした湿度を感じない。「人間が作業するとき不快に思うようでは、酒も一緒。良いものができないだろう」という言葉が印象的だ。

 

どこの蔵にいっても気持ちよく挨拶をしてくれるものだが、齋彌酒造店の場合は抜きん出ています。こちらに気づけばみんなが脱帽し、立ち止まって「どうぞいらっしゃいませ」と言ってくれる。忙しい作業中のこと、ここまでやる蔵はそうそうない。「社員教育がきちんと行き届いているんですね」と声をかけると、高橋杜氏は「一度もそんなことを教えたことはないんですよ」といい、齋藤社長も「蔵のことはすべて杜氏に任せています。でも杜氏がこうしろと言っているのを見たことはありません」と言います。酒づくりに関しても同様でマニュアルもなければ、「こうしろ」ということもないそう。

杜氏と副杜氏の2人は、冬期間ずっと泊まり込みで酒づくりをします。そこに蔵人が交代で4人加わり、2泊3日寝泊りをし麹仕事などにあたります。この「合宿」と呼ばれる体制を敷くことで、杜氏と一緒に蔵の一連の仕事を体験することができ、断片的な仕事でもそれが「何を目的とする作業なのか」「なぜそうするのか」という理解と想像ができるようになります。だから蔵人としての早い成長とともにモチベーションアップができるのでしょう。

「シフト表のメンバーを見て”今日は酒が多くいるな””今日はまだ足りるかな?”と考えるんですよ(笑)」と高橋杜氏は微笑む。聞けば、蔵人みんな日本酒好きで、合宿の夜にはみんなで飲むから杜氏はその準備をするのだという。こうして生活をともにしながら、杜氏にリズムを合わせていくことで、お互いを理解し、尊敬するからすべてが自然と整ってくるのだろう。”齋彌酒造店での酒づくりを経験すると人として一人前になって帰ってくる”と評判で、「うちの息子を預かってくれないか」とよく頼まれるそう。

▲製麹機も2台採用し、併用している。麹づくり以外の作業においても、新酒鑑評会に出品するような35%精米の純米大吟醸も、本醸造などのその他のお酒もまったく同じつくり方をする。毎度同じ作業を繰り返すことで、天気や気温などの条件が変化するなかで見せる酒のもろみや麹米の動きがデータが蓄積されていく。それは、まるで研究所を抱えているかのような大切な役割を果たしてくれる。

もろみを搾るタイミング、麹の切り返しのタイミング、すべてにおいて日数や時間や温度だけで決めるのではなく、最後は杜氏の「今だ!」という官能にゆだねているそう。ムリさせることなく、こちらが合わせて待つ――酒にしても、蔵人にしても、その姿勢は変わらないのかもしれない。

 

 

▲ホーロータンクに保温のためシートは巻いている。

▲無理にヒーターなどで温度調節せず、昔ながらの暖気樽(だきだる)にお湯を入れて品温を管理する

▲弾力ある良質な麹

▲すべてのお酒は、このヤブタと呼ばれる圧搾機で搾られる

▲昭和中頃に購入されたホーロータンクだが、まるで昨日購入したかのように白く輝き光る

 

お話をうかがっていると、齋藤社長からも高橋杜氏からも、互いへの尊敬の気持ちを感じます。そして二人とも普段はすごく優しいだろうに、酒の話、特に原料米の話になると目の奥が鋭く光る、良いものをつくろうという想いのうえでは、自分自身に対してもきっと厳しい人なのだろうと感じました。蔵の印象はまさに「とにかく清潔でまじめで、緊張感と優しさが隣り合わせにある」というもの。冒頭で挙げた酒の印象とリンクするから、『酒にはつくる人の姿が宿る』といわれるのも頷けます。酒のなかに浮かび上がるつくる人たちの想い、ぜひ「雪の茅舎」を飲んで感じてみてください。

 

  • <株式会社 齋彌酒造店>
  • 代表銘柄:「雪の茅舎」「由利正宗」「美酒の設計」
  • 秋田県由利本荘市石脇字石脇53
  • (JR御殿場線山北駅より徒歩20分)
  • TEL: 0184-22-0536
  • 公式ホームページ
  • 創業:1902年(明治35年)
  • 蔵見学: 要予約(1週間前までに電話で確認)

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
日本酒アドバイザーや飲食店勤務を経て、現在は「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の持つ味わい、文化、食事との相性、風土、歴史、人情など様々な日本酒の楽しみ方を提供。記事の執筆、イベントやセミナー講師および主催、日本酒専門店の女将としての接客業務など多角的な活動を通じて、日本酒のおいしさと日本文化の豊かさを伝えている。現在兵庫県の山陽盃酒造にて蔵人として酒づくり中。
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