あらためて純米吟醸、大吟醸…「吟醸酒」ってなんだろう?─2018年吟醸新酒祭レポート
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日本酒は製法の差によって大まかに、特定名称酒と普通酒のふたつに区分することができます。その特定名称酒のなかでも、吟醸、大吟醸、純米大吟醸という吟醸酒があります。この吟醸酒に特化したイベント、「2018年吟醸新酒祭」が5月13日 有楽町でおこなわれました。
吟醸酒とは?
主催する日本吟醸酒協会によると、吟醸酒の定義は、
特定名称酒の中で、お米を60%以下に精米して使用し低温でじっくり発酵させるなど、特別に吟味して造ったお酒で、果物を思わせる香り、すっきりした飲み口、のど越しのなめらかさが特徴です。
<出典:日本吟醸酒協会ホームページ 抜粋>
だそう。また、
明治時代に清酒品評会の入賞を目指して、原料米の磨きや吸水具合、仕込み水の性質、低温でのゆっくりとした発酵管理など、酒造りの技術を高め競い合う課程で、吟醸酒は誕生しました。「全国新酒鑑評会」の一般公開を通じて、存在が知られることになりましたが、当時、飲んでみたくても市場にはありません。手に入れるには、商品化される1980年頃まで待たなければなりませんでした。
<出典:同上>
現在の市場には、たくさんの吟醸酒が出回っており、高価ではあるものの鑑評会出品酒や同等の(タンク違いなど)お酒を飲むことができます。だからこそ鑑評会出品酒はもとより、定番で販売している吟醸酒の品質向上を目指して酒蔵同士が切磋琢磨する、またはその良さを知ってもらうために吟醸酒協会が存在し、毎年イベントが開催されているのです。
東京でもおなじみの、あのお酒このお酒
▲関谷醸造の営業部長・関谷匡史さん
▲左から「和」「吟」「空(くう)」「一念不動」
愛知県で「蓬莱泉」をつくる関谷醸造。こちらの蔵は本社蔵、吟醸蔵の2拠点があり、この日通常商品とは別のお酒を持参する蔵も多いなかで珍しく、この高級な純米大吟醸が定番商品という蔵です。この日の注目は「吟」の生酒。通常商品は火入れをして3年熟成したのち出荷されますが、毎年2月、6月、10月のみ販売される、限定品です。吟醸酒は新酒で飲んでもおいしいですが、「吟」のように品質の良い、丁寧につくられたお酒は熟成させて、何年かの時を経てさらにおいしくなります。飲み比べすると面白いかも。
▲秋田清酒 社長・伊藤洋平さん
▲左から「Marlin」「飛翔の舞」「嘉永」「山廃純米吟醸」
つぎに「出羽鶴」「刈穂」の秋田清酒。吟醸酒協会のほかにも、awa酒協会の立ち上げに寄与するなど、現在の高品質のお酒をさらに磨き業界全体の底上げを目指す、酒どころ秋田を代表する伝統蔵のひとつ、注目すべき蔵です。鑑評会出品酒同等レベルの「嘉永」、山廃づくりでつくったという変わりダネ「山廃純米吟醸」はもちろんチェックすべき一品ですが、6~8月限定で発売される「Marlin」も華やかな香りだけでなく酸味もしっかりあって、さわやかな夏にぴったりの一本です。
▲亀の井酒造 専務取締役・今井俊典さん
▲全7種あったお酒が、人気のためイベント終了時には3種を残すのみとなっていた。
「くどき上手」という色っぽいネーミングのお酒で有名な亀の井酒造。名は体を表すとはよく言ったもので、むかしから色気のある華やかな香りが特徴のお酒です。現在の日本酒シーンは、多くの香り高いお酒に出会うことができますが、「くどき上手」はそのずっと前、15~20年前から現在のスタイルを貫いています。華やかな香りが出やすい酵母を使用する代わりに、麹菌は逆にクラシカルなものを使っているそう。「上品な香り、上品な甘さを変わらず目指しています」と今井専務がいう通り、変わらず支持され続ける理由は酒質設計の妙にあります。
地元の銘酒や注目したい別銘柄
▲一本義久保本店の営業部・三上真輝さん
キレのある後味を重視した「一本義」、そしてもうひとつの銘柄「伝心」はやわらかい口あたりが特徴とそれぞれが異なるコンセプトを持っています。しかしともに飲みやすくどちらもどなたにでも薦めやすく、さらに「伝心は去年より、やや味が丸い、まろやかな印象です」と三上さんが話してくれました。
▲下越酒造 社長の佐藤俊一さん
つぎに「麒麟」「ほまれ麒麟」を醸す下越酒造ブース。おすすめの純米大吟醸は、山田錦でつくった酒と地元新潟の米である五百万石でつくった酒とのブレンドだそう。「味がある山田錦と、それよりすっきりした五百万石をブレンドすることでちょうどよい、より良い酒になるんだよ」と佐藤社長は語ります。はなしの通り、酒がおいしいうえに先代、佐藤社長ともに国税局の酒類鑑定官を務めた人物というから、そのテイスティング技術や能力はお墨付きです。「蒲原(かんばら)」は、【新潟酒=辛口淡麗】というイメージとは別のものをつくろう!!がコンセプトの、「ひと口目からおいしい」を目指すシリーズです。この甘みととろみはきっと、日本酒初心者のかたにも愛される味でしょう。
▲開当男山酒造の蔵元・渡部謙一さんとご子息
福島の南会津で「開当男山」というお酒を醸す開当男山酒造。銘柄の名前は、先代の「渡部開当」氏の名前から由来しています。毎年吟醸酒協会のイベントには登場するものの、800~900石あるという製造量の約70%が福島県内で販売されるという、まさに地方の銘酒です。きれいな吟醸香、さらりとした程よい甘み、口の中に残らないキレのある旨味。ぜひチェックしたいお酒のひとつといえるでしょう。東京で購入したい方は、日本橋ふくしま館MIDETTE(ミデッテ)でどうぞ!
▲青木酒造 専務取締役・青木知佐さん
「御慶事」を醸す青木酒造。3年ほど前までは製造量の約90%が地元茨城県古河市内というかなり限られたエリアだけで販売されていましたが、近年さまざまな賞に輝き、多くの日本酒ファンの目に留まることになりました。超限定の「夏の生酒」はもちろん人気で早めにチェックしたほうが良い一本ですが、今年からスタートした「辛口」もすっきりとした甘みが特徴の人気必至に一本です。茨城の「いちばんぼし」というお米を55%研いて使用したお酒。ゲットするならお早めに!
料理に合わない?いいえ、吟醸酒の多様性を体験しよう
吟醸酒--特に大吟醸酒はその華やさや高級というイメージから、「何杯も飲めない」「料理に合わない」「熟成に向かない」と言われることが多いのが現状です。しかしこうして多くのお酒を比べてみると、新酒のうちに飲むのが適したもの、出汁や刺身などともフィットするもの、数年のときを経てさらにおいしくなるものなど、その多様性に気づかされます。先入観にとらわれず、お酒単体でも楽しみ、居酒屋やレストランでさまざまな料理とのマリアージュにもチャレンジしてみてはいかがでしょう。
今後は、2018年9月27日に大阪吟醸酒を味わう会、2018年10月24日に東京秋の吟醸酒を味わう会が開催予定です。詳しいイベント情報は随時「日本吟醸酒協会」ホームページでご確認ください。