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銘酒の裕多加(札幌市北区)<札幌の酒屋のいま・平成30年北海道胆振東部地震後の姿>

掲載

2018年9月6日未明3時7分59.3秒。北海道の胆振地方中東部を震源としたマグニチュード6.7、最大深度7の北海道での観測史上もっとも大きな地震に襲われた。直後からの北海道全域一斉停電が、道民の不安と混乱に拍車をかけた。いまだ余震が頻発しているものの、大半のライフラインは予定を大幅に繰り上げて復旧し、もとの生活が戻る兆しが見えてきている。今後は「北海道は危ない」「迷惑にならないよう触れないようにしよう」「今は酒を飲んでいる場合じゃない」といった自粛が二次災害的におとずれる。偶然故郷である札幌で被災した筆者は、自分にできることはないかと札幌市の地酒屋を自転車で回り、現状を取材してきた。(9月10日現在)

 

銘酒の裕多加

広大な敷地をもつ北海道大学の北、札幌市民の生活を支える第二級河川・新川沿いにある「銘酒の裕多加」。筆者の祖父母の家も近いこちらは、トラックが通るだけで家が揺れる地盤だ。不安な思いを抱えながら店へと急ぎ、同店取締役常務である熊田架凛(かりん)さんにお話をうかがった。

被害状況

日本酒、焼酎、泡盛などあわせて100本を超える酒が破損した。表の棚にディスプレイしていた分の被害は案外少なく、ほとんどが冷蔵庫裏のウォークインになっている保管場所での破損だった。また新しく入れ替えた冷蔵庫には搭載されているバックヤード側に転落防止としてついているストッパーが、旧式の冷蔵庫にはついておらず、旧式冷蔵庫の背面から瓶が転落し破損しているものも多かった。「なにかのタイミングで冷蔵庫の入れ替えに着手しなければ、とは思っていたんですが…。」と架凛さんは悔しい表情を浮かべる。

▲割れずに済んだ瓶の洗浄をするスタッフの姿。お客様が手に取った時のことを考え、ガラスの破片が残らないよう慎重におこなう。

 

スタッフの人的被害はなく、近くに住むスタッフが地震後、夜が明けた店に自然と集まり、片付け作業にあたったが、店内にいるだけで酔ってしまいそうなほどの酒がこぼれ出ていた。断水はされなかったので、冷蔵庫全面と酒一本いっぽんとを水とアルコールとで丁寧に拭き上げ、停電によって照明がないため、暗くなる前に解散をした。

9月6日21:30頃電気は復旧。冷蔵庫内の温度が上昇していたため、翌日昼まで停電が続けば生酒はすべて廃棄する予定だったが、なんとかさらなる被害は免れた。

地震対策はおこなわれていたが…。

札幌市のハザードマップを見ても、震度6強で家屋全壊の可能性あり…と、この地の地盤の悪さがうかがえる。しかし日本酒だけで500種類、10000本を超える裕多加の在庫を思うと、100本の破損は最小限の被害と言えるのかもしれない。事前になされていた対策は次の通りだ。

  • ・地盤部分、店舗に18m、事務所に9mの支柱を打っている。
  • ・瓶を棚ギリギリの部分に置かない。
  • ・新型冷蔵庫背面のストッパー設置。
  • ・倉庫の在庫はキャスター付きの台車に載せる。(在庫管理しやすく、移動するだけで落下破損の危険性が下がる)

最小限の被害にとどまったものの「毎年、大信州や田酒の蔵に酒づくりをさせてもらいに行っているので、酒造りの大変さ、尊さは理解しています。割れた酒瓶を見てとても悲しい気持ちになりました。」と架凛さん。

配送状況

当日の物流は完全にストップ。9月8日から発送が可能になり、7日から少しずつ荷物が届くようになった。8日には北海道内で滞っていた荷物が一気に届き、片付けのさ中で置き場が足りないほどに。10日からは飲食店の営業もはじまり、裕多加としても本格的な営業が開始した。現在は発着ともに通常通りに戻っている。

店舗特徴

熊田社長と社長の娘である理恵さん、その夫である架凛さん、そして8名のスタッフで運営されている。スタッフそれぞれが思いを持って担当酒の販売にあたれるように、役員陣はできるだけ裏方に徹している。昨年ワイン担当のアロンさんも加わり、外国人対応も万全。キッズスペースもあるため、子供がお絵描きなど遊んでいるあいだに酒選びをすることができる。スタッフ同士の仲も非常によく活気ある店内は、つい長居してしまいそうな居心地よい空間だ。

▲アメリカ・カリフォルニア州出身の熊田架凛さん。2006年熊田家と出会い、日本酒業界に飛び込んだ。熊田社長の熱い想いをしっかりと受け継いでいる。

銘酒の裕多加、オススメの日本酒

左から『大信州』、『大信州 裕多加PBラベル』、『ヒトツメ』、『北斗随想』

ヒトツメは、熊田理恵さん、架凛さん、日本清酒・市澤 智子さん、新十津川町の農家・新井さんとがタッグを組んで、北海道初の契約栽培米でつくられたお酒。道外では既に一般的になっている契約栽培米での醸造だが、北海道ではようやく解禁されたばかり。未だシステムが構築されていなかった。「新井さん、この田んぼからできた米だけで造った日本酒、飲みたくありませんか?」という熊田理恵さんのひと言によってすべては始動した。北海道にとっての第一歩、熊田夫妻にとっての第一歩、蔵にとっての…と新しい大きな意味ある第一歩への思い入れを「ヒトツメ」という名前に込めた。

 

日本酒をわが子のように思って販売しているので、「この人なら、この子(酒)を大切に扱ってくれるだろうな。幸せだろうな。」と思える人の手に届けたい、店とお客様とは対等な関係でいたいという考えで営業にあたっている。「お店としては間違ってるんじゃないかな、と思うこともあるんですけどね(笑)」とはにかむ架凛さんの表情から、お酒に対する誠実な姿勢やその奥にいる熊田社長の人柄さえも感じることができた。すでに通常営業に戻っているので、札幌を訪れた際にはぜひ立ち寄ってみて欲しい。

 

 

店舗情報

銘酒の裕多加

  • 住所:北海道札幌市北区北25条西15丁目4−13
  • 電話番号:011-716-5174
  • 営業時間:月曜〜土曜10:00〜20:00、日曜・祝日10:00〜19:00
  • 定休日:年中無休(日曜配送なし)
  • 駐車場:店舗前と向かい側にあり
  • ホームページ:http://www.yutaka1.com/
  • テイスティングスペースあり。試飲可能  ※ドライバーの飲酒は固く禁じられています。

 

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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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