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日本全国酒蔵レポート/「来楽」茨木酒造(兵庫県明石市)

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全国に酒造場は約1,600場あります。小さな蔵から、大きい蔵…たくさんあって、生きているうちにすべてのお酒を飲むことは不可能にも思えます。だからこそ、蔵やお酒のストーリーに触れ、興味をもったものから飲んでみて、あなただけのお気に入りの一本を見つけてみましょう。

2蔵目は、「来楽」を醸す「茨木酒造」です。

 

参勤交代の通り道、魚住の地酒

「来楽」をかもす茨木酒造は、1848年(嘉永元年)創業。今回お話しをうかがった茨木幹人(みきひと)さんで、9代目を数えます。明石海峡大橋や明石城、それから日本標準時子午線が通る街として有名な明石市のなかでもやや西側、いかにも海沿いの町にふさわしい魚住という土地に蔵はあります。

 

江戸末期から現存する蔵は、兵庫県登録有形文化財に指定されています。この建物は、気温が低く風通しの良い場所を良しとする酒づくりに適した『北流れ』という造りになっており、南北に短く、東西に長い。日光を遮るために南側は土壁になって、北側は風が入るような理にかなった構造になっており、先人の知恵を感じさせられます。

 

現在では、ほど近い場所に兵庫県道718号線が通っていますが、かつては蔵の横にある道が参勤交代の順路でもあり、東西の往来が盛んなメインストリートだったそう。そうした経緯もあり、最盛期の明治時代には近隣に60もの酒蔵が軒を連ねる、西灘ならではの酒づくりが盛んな場所でした。それが今では3,4軒ほど、市内にも6軒、と減ってしまったこともあり、茨木酒造は当時の面影を残す貴重な地酒蔵といえます。

 

瀬戸内の白身魚や魚介と合う”花酵母”の酒

明石と聞けば、食いしん坊の人ならすぐにピンとくるはず。明石鯛、明石タコ、穴子に海苔…と瀬戸内の海の幸が豊富に獲れる場所です。茨木酒造の裏手、振り返ればすぐそこはもう海。おだやかな水面と、向こう側に四国が見えてきます。だから「来楽」は、白身魚を食べるときに邪魔しない程度の華やかな香りと、魚介類の味わいを引き立てるような旨味が特徴です。

そのやわらかな香りのもとは、『花酵母』から由来しています。東京農業大学といって、国内で唯一発酵・醸造専門の学科のある大学で4年間学び、花酵母の研究室に所属していました。そうして蔵に戻り杜氏をつとめる幹人さんが主に使用するのは、アベリアと月下美人といった自然界にある花から培養された酵母。最近ではパン作りに、山から採集された『白神こだま酵母』などを使用するのを多く目にしますが、同じようなものだと思ってもらえればわかりやすいでしょうか。花の味や香りがするわけではなく、それぞれに発酵の仕方や香りの特徴がある、自然界からの恵みです。多用されるアベリア酵母は、先ほどのやわらかで華やかな香りが出やすいとされ、それが、日本酒が苦手な人でも手を出しやすい、と「来楽」が喜ばれる理由のひとつなのかもしれません。

 

少数精鋭、たった2.5人でつくる「来楽」という地酒

製造は、杜氏の幹人さんともう1名。あとヘルプのかたを含めると、2.5名が担当しています。洗米から瓶詰めまですべてこのメンバーでおこなうため、総生産量も200~250石(1石=一升瓶100本)で精いっぱい。無理することなく品質維持・向上に当たっています。少数精鋭が理由なのか、幹人さんの性格なのか、とにかく随所にアイディアが詰まっているのがこの蔵の特徴です!

そのひとつは、麹室(こうじむろ)の設備。多くの蔵では、瓶貯蔵の冷蔵設備として使われることが多いものですが、「保冷ができるなら、保温もできるやろ!」と麹室に転用しました。通常は木造のところが多いですが、この設備を使用することによって、壁や床が清掃しやすく、清潔を保つことが可能になっています。実はこのアイディアは仲間にも共有され、姫路市の「灘菊」でも採用されています。値段も比較的安価で済み、移動も楽。作業工程を考えて、現在もう1室つくることを検討しているそうです。

▲麹室の内部。壁、床、天井にいたるまでピカピカに清掃がしやすい。

ここだけは譲れない、搾りへのこだわり

「どこも醪(もろみ)まではこだわって、当然しっかりつくってると思うんです。でも搾りの時点で、癖がついたり、香りがついたりすることが多い。」と幹人さんが注目し、こだわるのは酒づくりの終盤工程である、上槽(じょうそう)とよばれるしぼりの作業。酒税法上での清酒であるためには必ず、ろ過することが義務づけられています。

 

槽(ふね)、袋吊り…など様々な方法がありますが、一般的につかわれているのは、連続式自動ろ過圧搾機、通常ヤブタと呼ばれるものです。アコーディオンのような形で、間にあいだに空気を入れていきふくらませることによって、中を通る酒のもろみを、酒粕と液体をわける仕組み。とても効率的なこの機械ですが、使用されている部品が布やゴムなどを含むため、臭いを吸着するものが多く、搾りのたびに清掃してどんなに清潔を保っていても残り香が酒に移ってしまうのだそう。それを防ぐことができないか、追い求めて辿り着いた機械をようやく採用できたというから、「来楽」のさらなる酒質の向上は間違いないのです。

▲匂いを吸着せず使い続けられる、こだわりのしぼり機の一部

 

日本酒ファンや地域の方たちの憩いの場『酒蔵寄席』

創業当初から残る蔵は、少量生産に切り替わった現在ではあまり使われることはありませんでした。そこで「せっかくなので」と落語家さんを招いて『酒蔵寄席』をはじめたのは、1998年(平成10年)のことです。以来毎年春と秋の2回、演者も観客もさまざまな方が来て、「来楽」と落語を楽しんでいきます。その他にも、蔵の周囲に残る田んぼを利用して、田植え、稲刈り、仕込み、搾り、と一連の日本酒造りを体験してもらう『元旦仕込みの会』もおこない、そのときに一緒に米麹を利用した味噌づくりを楽しむなど、周囲の方たちも参加してもらい、日本酒を身近に感じてもらえる体験をおこなっています。

 

地酒とは、地域の顔であれ。地酒とは、地域の中心であれ。地酒とは、みんなを笑顔にするものであれ。地酒とは、地域の誇りであれ。「来楽」を飲み、茨木酒造にお邪魔してそんなことを感じました。表からみても、裏からみても「来楽」。縁起のよい名を持つ酒を、みんなで囲んでみてはいかがですか。

 

  • <茨木酒造>
  • 代表銘柄:「来楽」
  •  兵庫県明石市魚住町西岡1377
  • (山陽魚住駅から徒歩7分)
  • TEL: 078-946-0061
  • ホームページ:http://rairaku.jp/
  • 創業:1848年(嘉永元年)
  • 蔵見学: 要予約

酒蔵レポート
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ライター プロフィール

日本酒ライター 友美

関友美

日本酒ライター/コラムニスト/唎酒師/フリーランス女将/蔵人
「とっておきの1本をみつける感動を多くの人に」という想いのもと、日本酒の魅力を発信するさまざまな活動をおこなっています。 全国の酒蔵を巡り取材をしWebや雑誌への記事執筆、カルチャースクールのセミナーや講演、酒蔵での酒づくり、各地の酒場での女将業など、場所と手段を超えて日本酒のおいしさと、地域文化の魅力を伝えています。北海道出身。東京と兵庫の二拠点生活中。
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