「三重県」尽くしの日本酒「半蔵」。なぜ伊勢志摩サミットの乾杯酒に選ばれたのか。
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三重県には米づくに適した広い土地と、良質な清水に恵まれた豊かな自然があります。とは言え、新潟県や長野県程の広大さや酒処としての華やかさがないので、余った土地を利用した田舎の地場産業と思われがちですが、伊賀市や名張市など北部を中心に三重県内にも良質な酒蔵が点在します。
三重県で造られる日本酒と言えば、「而今」や「作」など全国区の飲食店で常用されたり、話題性のある銘柄もありますが、先日訪れた三重県伊賀市の街道沿いでフルーティな辛口を売りとする日本酒「半蔵」に出会いました。
半蔵の無濾過生原酒を飲んでみた
「半蔵」は先に記した通り、辛口を売りとする日本酒です。2016年に三重県で開催された伊勢志摩サミットでは、各国の首脳に振る舞われるディナーやワーキングランチの食材に三重県の地元食材が多く採用されましたが、この「半蔵」もディナーの乾杯酒に採用された日本酒の1つです。
「半蔵」贔屓のファンや地酒通にとっては今更の話題かもしれませんが、今回はその「半蔵」の限定酒「半蔵 純米無濾過生原酒」を実際に飲んでみました。
生原酒は品質を維持したままの拡販が難しいため、直営店でしか販売しておらず、今回は「半蔵」を生産する大田酒造と街道を挟んで向かいに位置する直営店「酒蔵りかこ」で購入しました。
直営店「酒蔵りかこ」の店頭から
「半蔵」は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」にも選出された過去があり、一般的にはまろやかでふくみのある口当たりと評されています。実際に飲んでみると、確かにフルーティでバナナのような香りが印象的。日本酒度は+5度と辛口の部類ですが、出過ぎる風味もなく食中酒やくつろぎの1杯と評される理由がよく分かります。
濃い味付けや清涼感のある料理にも合わせやすい濃醇辛口なジャンルに当てはまる為、初夏から秋にかけての料理に合わせやすく、これからの季節にぴったりです。
しかし、フルーティーさを売りにしている日本酒は流行もあって数多く、辛口と言えども控えめな印象のある「半蔵」。もちろん今回口にした商品が純米無濾過生原酒である点も銘柄の印象を決めますが、サミットの乾杯種に選ばれる程の魅力がどこにあるのか気になり、今回生産地に触れました。
三重県尽くしの拘り。三重の地酒が安価で美味しくなったからこそ選ばれた?
大田酒造から車で30分以内にある赤目四十八滝。この清水を使った瀧自慢酒造も同じく特別銘柄に選ばれた
サミットで提供される食材は専門家のテイスティングや協議の下に決定されますが、アルコール類に関しても、外務省関係者が1本1本テイスティングを重ね、選別したと公表されています。「半蔵」が特別銘柄に選ばれた理由には「半蔵」が県の開発酵母である「三重県酵母」と県内で開発された酒造好適米「神の穂」を使用して造られた三重尽くしの日本酒である点が1つ理由に挙げられます。
「半蔵」の仕込みに使われている「神の穂」は、地元で生産された酒米でお酒を仕込みたいという県内酒造メーカーの要望を受け、三重県で開発された酒米です。全国規模で有名な酒造好適米である「五百万石」と同程度の大粒で、製成した酒を柔らかくふくらみのある酒質に仕上げるのが特徴です。
この神の穂を作付けするまでは、三重県内で栽培されている酒造好適米の品種はほ とんどが「山田錦」で、大吟醸よりも安価な吟醸酒向けには「五百万石」を酒米として使用していたそう。しかしこの五百万石は食米である「こしひかり」と作付け時期がずれる品種のため、県内で生産し辛いという欠点があります。それ故、吟醸酒向けの酒米は他県から購入するのが常設となっていたところに、地元でとれる酒米をという声があがったのは、土地に根付いた酒造りにとっては必然と言えたかもしれません。
同様の例は他県にもみられ、同時期に福島県などでも酒造好適米を県内で開発する活動がさかんになりました。生原酒など、品質を担保する観点から生産地を出ない限定酒に注目が集まっている今では、酒造りも地産地消でこそ地酒と呼べるのかもしれません。
半蔵の無濾過生原酒は720㎖1500円と限定酒としては御手頃価格で販売されていました。伊勢志摩サミットで選ばれた日本酒には「半蔵」の他にも赤目四十八滝の麓で造られる瀧自慢酒造の日本酒「瀧自慢」などがあり、これらも安価で手に入りやすいことから、「食卓とサミットのテーブルに同じ日本酒が並ぶことが、日本の酒の質の良さを世界に示している」として特別銘柄に選別されたと言われています。
米と水、そして酵母だけで造る吟醸酒だからこそ、すべて三重県産で拵えた日本酒には値段に関わらず国賓を持て成すだけの価値があると判断されたのかもしれません。